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第39話 レコーディング⑤
勢いよく体を跳ね上げた。
はぁはぁ、びっくりした……。
額を手で抑えると汗で濡れていた。
「なんだ夢か」
ダセー。
なんで、お化け屋敷如きの夢で魘されなきゃなんないんだよ。
「大丈夫か? すげー悲鳴だったけど……」
声のする方を見ると、ヤバいものを見たような目で俺を見る音弥がいた。
「え、え、いつからいたの?」
「え〜っと、5分くらい前?」
音弥がいたことに驚いたが、それよりもさっきの悲鳴を聞かれたことが恥ずかしく、目をパチクリさせたまま脳内停止してしまった。
お〜い、大丈夫か?、と俺の目の前で手を振った。
「だいぶ魘されてたな。声合わせやめとく?」
変な夢のせいで、休憩時間にユニット曲の声合わせをする約束を忘れていた。
「あ、いや、ごめん。大丈夫。恥ずかしいんだけどさ、お化け屋敷の夢見ただけで……」
お化け屋敷?、と音弥がキョトンとした顔で聞いたと思ったら、大声で笑い始めた。
「あははは! お化け屋敷って!」
腹を抱えて笑い続けている音弥の笑い声が、控え室中に響き渡った。
「はぁ〜、おかしい! 魘されて飛び起きたの? 純斗可愛いね。お化け苦手だったっけ?」
「笑いすぎ!」
あまりにも音弥が爆笑するから背を向けた。
ごめん、ごめん、と俺の背中を叩いた。
「そんな不貞腐れんなよー。誰でも不得意のものはあるからさ」
「バカにしてんだろ」
していない、してない、と言っているが、まだ笑っている。
「それより、みんなそろそろ戻ってくるんじゃない?」
「あ、声合わせだったよね? ごめん、寝てて」
大丈夫、と音弥が優しい声で言った。
「それに、時計見てみ?」
控え室にある時計を見ると、俺が戻ってきた時間から10分しか進んでいなかった。
俺と音弥はかなり早く終わったようだ。
「だから、いまからユニット曲付き合ってくれない?」
もちろん、と音弥の横に座った。
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