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1.やけど (3)

 ケイを指名する客は、ケイが会話が苦手なことを承知している。  それでも会話を試みる客もいれば、行為が終わるとあっさり別れる客もいた。  今日の相手は後者で、予定の時間より少し早かったが、支度が済んだら帰っていいよと言われた。  【|胡蝶蘭《こちょうらん》】は男性同性愛者向けの出張ホスト店で、ケイは現在この店でホストとして勤務している。  半年前、店のマネージャーであるモトイに声をかけられたのがきっかけだった。 当時、所持金もなく、身元の保証もなく、住む家もなかったケイにとって、それは幸運だった。  胡蝶蘭では在籍ホスト向けに、社宅としてマンションを賃貸している。 バスルーム・トイレ・脱衣所は独立したスペースがあり、一人暮らしには使いやすい広さの十二畳1Kの間取りで、エアコンから洗濯機・冷蔵庫など最低限の電化製品と家具が備え付けられていた。 保証人不要で、家賃も格安だ。  胡蝶蘭に所属すること以外に条件はなく、冬に向かう季節にホームレス生活だったケイとって、部屋を貸してもらえるというのはそれ以上ない好条件で、胡蝶蘭に入店することについて迷う理由はひとつもなかった。  モトイはとても面倒見の良い男で、ケイが入店後も何かと気にかけてくれる。 年齢は不詳だがおそらく二十代半ばから後半の働き盛りで、明るくて頼りがいがある。 普段はカジュアルなスタイルで仕事をしていることが多く、風俗店のマネージャーという肩書は、言われてもピンとこない。  人見知りとは無縁そうで、誰とでも気さくに話すので、風貌とも相まって軽薄そうに見えるが、実際は恋愛のことは真面目に考えるタイプらしい。 セクシュアリティはほぼストレートだと言う。 「ほぼ」というのがどういう意味なのかまでは、ケイは知らない。

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