8 / 50
2.キャラメルマキアート (3)
ケイは呆然としていた。
目の前に立っていたのは、見慣れない高校の制服を来たアンリだった。
中学の頃よりも背が伸びて、大人っぽくなって、とてもかっこよくなっている。
先ほど入り口の空気が変わったのは彼が原因だったようで、店内の他の客――特に女性客は、そわそわとした様子で遠慮がちに、しかし明らかにアンリに興味を示していた。
「窓の外から見えて、もしかしてと思ったんだ。ほんとにケイトだった、」
ケイのことを、正しくケイトと呼ぶのはアンリだけだ。
懐かしい響きに、いっきに中学時代の記憶が脳裏をかけめぐる。
喋り始めるのが遅かったケイは、しばらく自分の名前も正しく発音できなかった。
無理に発音しようとして『ケイコ』になってしまい、ひどくからかわれたこともある。
それからは名前を聞かれると、ケイと答えていた。さらに、ケイトの『ト』という漢字もしばらく書けなかったので、紙に名前を書く時も『ケイ』の漢字のほうだけを書いていた。
どうせ呼ぶ人もいないのだから、なんでも良いと思っていたのに、アンリはわざわざ出席簿の漢字を見て、「佳透」と書いて「ケイ」はないだろうと、本当は何と読むのかと聞いてきたのだった。
ともだちにシェアしよう!