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2.キャラメルマキアート (4)
「隣、いい?」
何を聞かれているのかわからず、ケイは目を丸めたままきょとんと首をかしげた。
その反応に、アンリは数秒間ポーカーフェイスを保ったが、耐えきれないといったように、ふっと小さな笑いを漏らした。
笑うと目もとが緩み、中学時代のあどけなさが戻るようだった。
本当にアンリなんだなぁと、ケイはしみじみと納得した。
「少し話しがしたいから、隣に座ってもいい?」
絵本を読み聞かせるようにゆっくりと質問されると、今度は意味を理解したケイは、うん、と承諾の返事をした。
アンリは椅子に座ると、ようやく人心地ついたといった様子で、深く息をつく。
「似てるような気がして、でもちょっと雰囲気違うし、別人かなーとも思ったんだけど……、確かめにきて良かった、」
そう言って、本当に嬉しそうな表情を向けてくるアンリに、ケイは頬を赤くした。
慌ててうつむくと、アンリの掌が熱をもった頬に触れて、顔をあげさせられる。
「おれの前でうつむかなくていいって、言ったでしょ」
言い聞かせるような口調で、ね? と顔をのぞきこまれて、首から上がぜんぶ熱くなった。
「今、何してたの?」
「これ、飲んでた、」
「うん」
アンリは嫌味のない微笑をケイに向けて、「何飲んでたの」と、質問を重ねる。
「キャラメルマキアート……」
「ひとりで飲んでたの?」
ケイはこくんとうなずいて肯定した。
「今日、学校は休み?」
「がっこう、」
ケイは高校を途中退学してしまったので、今日が休みかどうかは知らない。
しかし平日なので、休みではないような気がする。
「休み、じゃ、ない……と思う、」
「ケイトは今日、学校に行かなかったの?」
「うん」
「なんで?」
「学校、やめた 、」
アンリの表情がいっしゅん曇った。
しかしすぐにまた優しく笑って、そうだったんだ、とうなずいた。
「ケイト、スマホ持ってないの?」
ケイには仕事用に持たされているスマートフォンがあった。
否定の意味で、ケイは首を左右にふる。
「え、持ってるの? じゃぁ連絡先教えて、」
と、アンリは矢継ぎ早に言いかけて、いちど言葉を止めた。
それからスラックスのポケットからスマートフォンを取り出して、ケイの眼前に見せながら、
「連絡先の交換、やり方わかる?」
「わかんない……」
ケイがじっとアンリの手の中にあるスマートフォンを見つめていると、アンリは反対側の手を差し出した。
「ケイトのスマホ貸してくれる?」
言われたとおり、ケイも黒のカーゴパンツのポケットに入れていたスマートフォンを出すと、画面のロックを外してからアンリに手渡した。
「サンキュ、」
アンリは二台のスマートフォンを操作し始めた。
ケイはそれを横で見ながら、
「アンリ、なんで、いるの、」
「なんでって、……」
アンリは一瞬手を止めてケイの顔を見ると、とたんに得心顔になって、
「学校の帰りだよ。カラオケ行こうって誘われて出てきてたところ」
「カラオケ、行く?」
「行かないよ。行くのやめたの」
それからアンリは、連絡先の登録が終わったらしいスマートフォンをケイに返した。
「IDと、一応、電話番号とメルアドも入れておいたから、」
ケイがメッセージアプリを指差されて画面を見ていると、唐突に短い通知音がして、アンリの名前が表示されているトークルームに、スタンプが送られてきた。
業務連絡くらいにしか使用しておらず、もちろんスタンプを送り合う相手などいなかったので、ケイはそのスタンプの意図がわからず、思わず画面を凝視した。
するとアンリがくつくつと笑って、
「今のは別に意味があって送ったわけじゃないからね」
アンリはケイと一緒にスマートフォンの画面をのぞきこむと、
「ケイトもスタンプ何個かダウンロードしておこうよ。テキスト入力するの苦手そうだから、スタンプなら簡単に送れるし」
「よ く、わかんない、」
「すぐ慣れるよ」
アンリは当たり前のようにケイの頭をよしよしと撫でて、スタンプのダウンロードと、送信の仕方を教えてくれた。
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