12 / 50

3.ケイとアンリ (3)

 ***  駅前の人出の多さに、ケイは今日が土曜日の真っ昼間であることを認識した。 朝はまだ過ごしやすかったが、正午に向けて気温がじりじりと上がっていた。  外を歩く人々の姿はもうすっかり夏の装いで、コンクリートに照りつける太陽の光のまぶしさに目を細めながら、足早にどこかへ向かってゆく。  待ち合わせに指定された十一時より、10分も早かった。  だからまさか、先にアンリが待っているとは思わなくて、ケイは時間を間違えたかといっしゅん慌てた。 「間違ってないよ。おれが早く着きすぎたの」  ケイの不安に対し、アンリはにっこりと優しく笑ってそう言った。  しかしアンリのような目立つ人が何分も待たされていると、行き交う人々の好奇の視線がすごい。 思い返してみれば、中学のときも、クラスも学年も違う、たくさんの女子から告白されていた。 「どこ行くとかは決めてなかったんだけど、どうしようか。行きたいところある?」  せっかくの土曜日に、どうしてわざわざ誘ってくれたのだろうかと、ケイは不思議に思いながら、アンリの顔を見つめた。 ずっと見つめていても飽きないくらいかっこいい。 「ケイトー?」 「え……」 「行きたいところ、ある?」  ケイはアンリの質問を聞いてなかったことに気付かされて、慌てて頭を振った。 「な、ない、」 「ケイトの家、ここからどのくらいなの?」 「どのくらい、」 「歩いて何分くらい?」  ケイはスマートフォンで時計を確認した。 家を出たのが40分くらいで、着いたのが50分だった。 「10分くらい、」 「ケイトの家行ってみたいんだけど。だめ?」 「だめ、じゃ、ない、」  家で何するんだろう、と考えながら、ケイは首を傾げた。 「じゃ、テイクアウトで飲み物買ってから、ケイトの家に行こう」  アンリは楽しそうにそう提案すると、なぜかケイにキャラメルマキアートを奢ってくれて、自分はカフェラテを注文した。

ともだちにシェアしよう!