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3.ケイとアンリ (4)

 ケイの家へ向かう道すがら、ケイは奢ってもらってしまったことを申し訳なく感じて、 「アンリ、これ、お金、払う、」  と、申し出てみたのだが、アンリに断られた。 「今日はケイトの家にお邪魔するから、手土産がわりだよ。もらっておいて、」  ね、と爽やかに念押しされて、ケイはしぶしぶうなずいた。  マンションのオートロックを開けて中へ入り、エレベーターで四階へ上がる。 「今更だけど、ひとり暮らし?」  エレベーターの中で、アンリに聞かれて、ケイは首肯する。 「色々、聞きたいことがあるんだけど、」 「……?」  なんだろう、と思って首を傾げていると、エレベーターが四階に到着した。 「あ、……こっち、」  ケイはしんと静まっている廊下を進み、七部屋あるうちの、六番目の部屋の前で立ち止まると、ドアの鍵を開けた。  アンリを玄関に招き入れると、なんだか急に、現実感の乏しいような、奇妙な感じがした。 「お邪魔しますー」  アンリはそう言って、礼儀正しく脱いだ靴の先をそろえてから中へ入った。  玄関を入ると短い廊下にキッチンスペースがあって、そのうしろのドアから洋室に続いている。  アンリは洋室に入ると物珍しそうに、 「おー、すごいきれい。つか、物がない」  と言って、小さなローテーブルを置いているところのラグマットの上に腰をおろした。  ケイはエアコンのスイッチをオンにしてから、アンリと直角ライン上のところの、ベランダが背中側になる位置に座った。 窓は東向きのため、朝は日がさしていたが、午後になると太陽の光は直接当たらなくなる。 「あ、テレビがないのか、」  アンリはぐるりと室内を見渡しながら、「なんか物足りないと思った」と付け足した。  ケイはちょっと氷の溶けてしまったキャラメルマキアートをひと口飲みながら、「うん」とうなずく。  洋室には壁際にもともと備え付けられていたパイプベッドと、折りたたみのローテーブルしか置いていない。ローテーブルの下に敷いてあるライトグレーのラグマットは、最初はなかったのだが、モトイがフローリングにじかに座るのもなんだからと言って、インテリア雑貨店に連れて行ってくれたときに買い足した。 オールシーズン使えるウレタン素材の厚手のマットで、さわり心地もよく、寝転んでも背中が痛くならないので、ケイは気に入っている。

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