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3.ケイとアンリ (5)
「それでさ、」
アンリは改まったような口調でケイに向き直った。
「ケイトはどうして高校やめて、ここにひとりで住んでるの?」
アンリの質問について、ケイは何と答えればよいのかわからなかった。
「どうし、て、」
――どうしてだろう。
ケイが難しい顔をしていることに気づいたのか、アンリは違う質問をした。
「ケイトがいた児童養護施設って、高校卒業までは面倒見てくれる予定だったよね?」
「うん……」
「まだ、高校卒業してないよね?」
「うん、」
「何か、高校に通えなくなるような問題があった?」
「うん、」
「何があったのか、話せる?」
ケイは困り果ててアンリの顔を見つめた。
それを説明するのは、言葉を紡ぐのが苦手なケイにはとても難しいことだった。
アンリは眉尻をちょっと下げるようにして微笑した。ケイが話せないことを、許容してくれるときの優しい表情だった。
「今って、施設から援助してもらえてるの?」
援助って、どういう意味だろう、と考えていたら、アンリが補足してくれた。
「生活するためのお金はもらってる? この部屋は、どうやって借りてるの?」
「もらって、なくて、部屋、は、……社宅?」
「社宅?」
社宅のようなものだとモトイが言っていたので、合っているはずだ。
「仕事してるの?」
「今、休んで、る、」
「どんな仕事?」
アンリはちょっと表情を顰めた。
ケイはここにきて、どうしよう、と焦った。
何となく、アンリに言いたくない。
「な……、」
「え?」
「内緒、」
ケイの回答を聞いたあと一拍おいて、アンリは、はーッと盛大にため息をついた。
「内緒って、何。おれに言えないようなことしてるの?」
ちょっと怒気を含んでいるような声に、ケイはしゅんとうつむいた。
「ケイト、怒んないから、教えて」
「も、怒ってる、」
「ケイトが言わないから、」
アンリは立てた左膝を抱えて、そこに顔を突っ伏す。
「ケイト……」
下を向いているせいか、アンリの声が少しくぐもった。
「今、誰か頼れる人、いる?」
ケイが答えかねていると、アンリは体勢を変えずに首をケイのほうへ向けた。
アンリが低い姿勢をとっているせいで、上目遣いに見上げられる。
ちょっと拗ねたような表情の中に、中学の時とは違う、おとなの男性としての色気が混じっていた。
ケイはなぜだか鼓動が早くなるのを感じて、頬を赤くした。
「いる、」
しばらくして、ケイがモトイの顔を思い浮かべながら答えると、アンリはほんの少しほっとしたように、「そっか」とうなずき、小さく笑んだ。
「今度、その人に会わせて、」
どうしてそんなことを言うのだろうとケイは不思議に思いながら、曖昧にうなずいた。
本当はあまり気が進まなかった。
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