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3.ケイとアンリ (12)
本を買ったあと、ちょうど小腹が空いてきたところだったので、電車の中でアンリが言っていたフレンチトーストのカフェへ言ってみることにした。
「さすがに、けっこう混んでそうかなー」
行列、というほどでもないが、店の外で待っている人たちがいる。
八割が女性客だったが、アンリはまったく気にするふうもなく、店舗の前に設置されている受付ボードを確認した。
「十五分くらい待つみたいだけど、どうする?」
外で待っていた女性客が、全員アンリのほうに視線を向けている。
声をかけてきそうな女性もいて、ケイは、自分が隣にいて大丈夫だろうか、と心配になった。
「ケイト?」
違うことを考えていたせいで、アンリの質問を聞き逃していたケイは、「えっ」とびっくりした声をあげた。
「待ち時間、十五分くらいなんだけど、待てる?」
「ま、待てる、」
慌てて、つっかえながら答えると、アンリは、「じゃ名前書いちゃうね」と言って、ボールペンをとった。
「あのー、二人で来てるんですか?」
名前を書いていたアンリのところに、ずっと話しかけたそうにしていた女性が歩み寄ってきた。
アンリは、ボールペンを置くと、え? と彼女のほうを見る。
「わたしたちも二人なんですけど、ご一緒できませんか?」
「あー……、おれ、彼女いるので、そういうのダメなんですよね。すみません」
アンリがあっさり断ると、声をかけてきた女性は、そうなんですねーと、残念そうに、しかし仕方なさそうに笑って、友人のいるほうへ戻って行った。
ケイは突然、胸をぎゅうっと鷲掴みにされたように息苦しくなって、その場に屈み込んだ。
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