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4.キス (5)

『あ、ケイト。よかった、出た』  と、すぐにアンリの声が聞こえて、ケイは返事をしようとしたが、声が出なかった。 『ケイト?』 「……あ゛…………、」  完全に喉が枯れている。 『え、声どうしたの。風邪? つか、いまどこ? 家にいる?』  忙しなく質問されて、ケイはかろうじて、最後の質問に答えた。 「い゛、る、」 『おれ、今、マンションの前なんだけど、鍵開けられない?』  ケイは、力が入らない手でなんとかスマートフォンを握りしめ、ベッドから這い出した。 膝が言うことをきかないので、立ち上がれずにうずくまってしまう。 這うようにしてモニターの前まで移動して、なんとかオートロックの解錠ボタンを押した。  そのまま、ずるずると玄関へ向かう。  壁づたいによろよろと歩いて、玄関の鍵を開けると、その瞬間に外側から勢いよくドアが開いて、ケイの体はぐらりと傾いた。 「うわ、ケイト、」  ケイの体は床に倒れる前に、中へ入ってきたアンリに抱きとめられた。 そこでケイの体の電池は切れてしまって、もう一歩も動けなくなった。 掌からスマートフォンが落下し、床でゴトンと硬い音をたてる。 「大丈夫……じゃなさそうだね。このままベッドまで運ぶよ?」  アンリが何か言っているのが聞こえてはいるが、頭がぼうっとしているせいで内容が理解できない。 答えずにいると、突然ふわりと体が浮いた。  ケイは驚いて目を丸くした。 アンリの手が膝の後ろと背中に回って、持ち上げられている。  声が出ないので、アンリの肩を弱く叩いて抗議してみたが、伝わらなかったようだった。 アンリは「ん?」と首をかしげつつ、ケイをお姫様抱っこしたままベッドがあるほうへ向かった。

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