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4.キス (7)
「ケイト、」
アンリが不審そうにケイの名前を呼んだ。
ケイはなんだろう、と思いながら、鉛のように重い体をゆっくりと反転させて、アンリの顔を見上げた。
「首の後ろ、赤くなってる」
アンリはそう言って眉をひそめた。
それは怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えて、ケイはわけがわからず、声を絞り出した。
「な゛に゛」
「キスマーク、」
はっきりと言われて、ようやくアンリが何を見たのかを理解したケイは、血の気が引いていくのを感じた。
ケイが何も答えずにいると、アンリは呆れたようなため息をついた。
「っていうかさ、おれのこと、避けてたよね?」
ケイは顔を見合わせているのに耐えられなくなって、また枕に顔をうずめた。
「なんで?」
アンリの問いかけに対し、ケイは答えを持っていたが、言葉にできなかった。
ケイから答えが得られないとわかったのか、アンリは諦めたように黙ってしまった。
耳鳴りのするような、居心地の悪い沈黙がふたりのいる空間を包んでいる。
ときおり、窓の外から猫の鳴き声や、車やバイクの走り抜けていく音が聞こえた。
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