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4.キス (8)
ピンポン、と、ケイの部屋のインターホンが鳴ったことによって、沈黙は唐突に途切れた。
集合玄関ではなく、部屋の前のインターホンの音だった。
ケイは上体を腕で支えながらゆっくりと起こしてみたが、立ち上がって玄関まで移動するのは難しそうだった。
「ケイト、寝てていいよ。おれが見てくる、」
アンリはそう言うと、ケイのかわりに玄関へ向かっていく。
姿が見えなくなると、玄関先からアンリと、もうひとり、モトイの声が聞こえてきた。
やがて、モトイがリビングへ入ってきた。うしろからアンリも追いかけてきている。
「ちょ、っと、あんた、」
アンリがモトイに向かって口を開いた。
「ん? ああ、おれ、いちおうこの子の保護者みたいなもんだから、」
モトイはあしらうような口調でそう言って、ベッド脇まで歩いてきた。
そして、ケイの顔を見るなり、
「顔赤いなー、熱は?」
と、ベッド端に腰掛けて、ケイの前髪を指でかきあげて額に触れる。
「の、ど、」
喉が痛い、と言おうとしたが、やはりまだ、ちゃんと声が出なかった。
「うわ、声ひどいな。喉痛い? 風邪かな。昨日は? なんか変わったことされてない?」
うまく喋れないのにたくさん質問されて、ケイは恨めしさのためにモトイを睨んだ。
「あはは、ごめん。そっか、喋れないのか、」
よしよし、と頭を撫ぜられて、ケイはむぅ、と唇を尖らす。
「医者に見せたほうがいいかなー……」
モトイは呟きながら、スマートフォンを取り出して、どこかに電話をかけ始めた。
その間も、乱れた呼吸を繰り返すケイの背中を、ぽんぽんと叩いてくれる。
背中に触れる掌の温度に安心感を覚えて、ケイはついモトイの胸に身を預けた。
モトイは電話で話しながら、甘えてくる子猫をあやすみたいに、ケイの襟足を指でくすぐった。
「ふっ、ぅ、」
くすぐったさに、ケイは吐息を漏らす。
しばらくそうされているうちに、アンリとの会話が途中だったことを忘れて、ケイは眠ってしまった。
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