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5.我侭 (8)
「ケイ、何飲む? 酒はまだ飲めないよね、」
ケイは、うん、と小さくうなずいた。
「烏龍茶と……ジュースもあるよ。オレンジとかアップルとかグレープフルーツとか、」
「え、と、……烏龍茶、」
カズキは了解、と言って、いちど席を立ってカウンターの内側へ入っていった。
程なくして烏龍茶の入ったデカンタと、氷を入れたグラスをふたつ持ってカウンターに戻ってくる。
そのうちのひとつのグラスをケイに手渡すと、そこに烏龍茶を注いでくれた。カズキは続けて、どこからか焼酎のボトルを取り出して、手慣れた様子で自分の分のウーロンハイを作り始めた。
そうこうしているうちに集合時間になって、だいたい全員集まったようだった。
「ドリンク全員いった?」
カズキはボックスからカウンターに戻ってきたレイに確認する。
レイがうなずくと、カズキはがやがやと騒々しい集団に向かって、「乾杯するよー」と声をかけた。
「それじゃー、マネージャーから一言もらいましょうか、」
ギリギリに来ていたらしいモトイが、複雑そうな顔をしてカズキを睨んだ。
「誰もおれの一言とか求めてないだろうけど……、今年もみんな、よく頑張ってくれてありがとう。お疲れさまでした」
カズキはあははっと笑いながら、
「今日はハメはずして楽しもうー、かんぱーい!」
と、乾杯の音頭をとった。
あちこちで乾杯! という声とともに、グラスのぶつかる音がする。
ケイが目をパチクリとさせていると、カズキがグラスを差し出してきた。
「ケイ、乾杯、」
ケイも慌ててグラスを前に出す。
「か んぱい、」
カチンっと小さな音がたった。
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