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5.我侭 (11)

「この店、普段はこんな騒がしくないから、ケイもなんか困った時とか、ひとりで家に帰りたくない日とかあったら、使ったらいいよ」  カズキはグラスを片手にしながらそう言って、にこりとケイに笑いかけた。 「メニューないけど、腹減ったって言ったらなんか作ってくれるし、」 「もともとチャーム用に少しは仕込んでるけど、そんなに量作ってないし、いつでもあるわけじゃないよ」  カウンター裏から戻ってきたレイがカズキの後ろからそう言った。 聞こえていたらしい。 「そうなの? グラタンとかオムライスとか出てきたことあったけど」 「作れるときもあるの」  レイは答えながら、ケイの前にコースターを置いて、そのうえに、ミントとくし切りのライムで彩られたきれいなドリンクをのせた。 「なにそれ、モヒート?」 と、カズキが訊いた。 「ノンアルモヒート。飲めそう?」  レイに確認されて、ケイはおもむろにグラスに口をつけた。 すっきりとした清涼感が広がる。 きつすぎない、程よい酸味があっておいしかった。 「おいしい、」 「飲めるもんあってよかった。さんきゅー」  なぜかケイのことでカズキがお礼を言うので、ケイも慌てて、 「ありがと、う、ございます、」  と続いて、ぺこりと頭を下げた。 「な、可愛いだろ?」  カズキがすかさずレイに同意を求める。  レイは垂れた目尻を緩めて笑って、可愛いね、とうなずいた。  ケイはそのまま顔をあげられなくなった。ものすごく顔が熱い。 どうしてこんなにかっこいい人と、きれいな人から、可愛いなどという評価をつけられるのか、ケイにはさっぱりわからない。

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