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5.我侭 (13)

「げっ、ユウ来た、」  思わず、といった感じで、カズキが眉根を寄せる。 「カズキさん、げっ、て言いましたか? いま、げっ、て!」 「あー、はいはい、言った言った」  カズキは呆れたように笑いながら、適当に答えている。 「誰かユウつぶせー」  と、ボックス側から野次が飛ぶ。 「おまえらつぶしてもいいけど責任持って連れて帰れよー」  カズキがカウンターから声を投げると、「店の前に転がしておきますー」と誰かがふざけて言った。 「みんなおれの扱い雑すぎっ、」 「え、おまえ泣き上戸だっけ、」  うわーんと子どものように泣き始めたユウに、カズキは付き合いきれないという感じで肩をすくめる。  ケイはレイの優しい腕から離れ、泣きじゃくっているユウをみて、いいな、と思った。  ――……泣いてみたら、よかったのかな。  レイの腕が空くと、ユウはここぞとばかりにレイに抱きついた。 「ケイは、喋るの苦手なんだろうけど、もうちょっと我侭言ってみたり、泣いたり怒ったりしてもいいと思うよ」  まるで内心を読まれたようなタイミングで、カズキが言った。 「え、」 「ユウは、うるさすぎだけどねー、」  まだレイにしがみついてわんわんと泣いているユウを横目に、カズキが困ったように笑いながらそう言った。

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