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5.我侭 (14)
午後九時から開始した忘年会は、十一時半頃にいったん区切りとなって、ちらほらと帰宅するメンバーが出始めた。
ケイも慣れない大騒ぎで疲れてしまったので、途中からうとうととまぶたが重くなっていた。
「ケイ、眠そうだな」
と、頭上から聞き慣れた声がした。モトイだった。
「モトイさん、」ケイはぼんやりとモトイを見上げた。
「帰る? 送ってくよ」
「あ、モトイさん飲んでないんでしたっけ、車?」
カウンターの奥で何か作業をしていたらしい、カズキが顔を出してそう言った。
「ああ、」と、モトイがうなずく。
「助かります。ひとりで帰すの心配だったからどうしようかなーと思ってたんですよね。おれ、片付け手伝うから一番最後になるし、」
「いや、つか、連れてきてくれてありがとな。最近……元気なかったっていうか、いや、もとからそんな元気なほうじゃないけど、様子おかしかったから、ちょっとは気分転換になったかも」
「んー、そうだといいですけどね、」
まどろみかけているケイの頭では、頭上に聞こえる会話が意味のあるものとして理解できなかった。
ケイはイスに座ったまま、左右にゆらゆらと揺れていて、やがて、かくんと斜めにたおれてイスから落ちそうになった。
「あぶなっ、」
モトイの腕がケイの肩を支える。
ケイは倒れそうになった衝撃にびっくりして、いっしゅんぱっちりと覚醒したが、モトイがいるのを見ると安心して、またまぶたを閉じてしまいそうになる。
「ありゃ、もう限界ですね」
と、カズキが笑った。
「だな。送ってくる。人手いるとか、なんかあったら戻れるから、連絡入れて、」
「はーい」
カズキはモトイにそう答えてから、
「ケイ、おやすみー」
と、言って、ひらひらと手を振った。
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