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6.心の場所 (3)

 ふたりの様子を見かねて、モトイがふぅ、とため息をついた。 それからアンリの腕を引くと、半ば無理矢理立ち上がらせる。  部屋に入ると、モトイはまず、アンリをバスルームへ押し込んだ。 「あったまるまで出てくるなよー」  そう念押ししてから、ベッドに腰を掛けているケイの傍に来ると、うつむいているケイに視線の位置を合わせるようにそこに屈んだ。 「大丈夫か?」  何に対しての『大丈夫』を確認しているのかは判然としなかったが、ケイは、小さくうなずいた。 「モトイさん、アンリ、知ってる、」 「ああ、前にケイが風邪で寝込んでた日に会っただろ、覚えてないか」  モトイの説明に、ケイは記憶を手繰り寄せる。 「そのときにめちゃくちゃ不審がられたから、挨拶したんだよ」  そういえば、熱を出して寝込んでいた夜に、アンリがいたことがあったような気がすると、ケイは思い出した。 その時ケイは熱のために夢と現実との境目が曖昧になっていたのだが、あの日、本当にアンリがいたのかもしれない。 「友だちなんだろ? 何かあった?」 「何 も、ない、」  ケイは小さな声で答えた。 「おれ、が、アンリに、会いたく、なかった、」  モトイは少し考えるような間のあと、そうか、と優しく言って、膝に置いたケイの手を軽く握った。 「ケイ、怖いのもわかるし、話すのが難しいのもわかるけど、人って言葉じゃないと伝わらないことも多いんだよ。 少しでいいから、アンリと頑張って話してみたらどうだ?」  頑張れるかどうかは自信がなくて、ケイはうなずくことはできなかった。

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