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第5話 オメガ性の目覚め (1/3)

「ううっ……」  生まれて初めて経験するヒートの辛さ、自分のバース性がオメガらしいと知った衝撃でリオは泣きじゃくりながら、アーロンに勧められるまま発情抑制剤を飲んだ。 「辛いよな……。二十歳までヒートが来なきゃ、普通はベータだと思うよな」  アーロンは床に座り込むリオを抱きしめた。怯える子どもをあやすように背中を撫でられると、更に涙腺が緩んだ。甘えるように、彼の胸元に鼻先を寄せると、異国の香辛料に似たアーロンの香りがリオを眩惑し、頭と身体の芯が痺れたように熱くなってくる。  リオは、自分の下半身の変化に困惑した。中心は昂っているが、下着を濡らしているのは、自分自身の先端から滲む蜜だけではない。異なるぬめりに、後孔が貫かれたがって疼いていることを、彼は本能的に理解した。ふうふうと荒い息をつき、どうにか欲望をやり過ごそうとしたが、下半身は昂る一方だ。前は痛いほど張り詰め、後ろはぐずぐずに濡れ、ひくついている。 「も……、やだよぉ、こんなの」 「どうして? オメガの本能だろ? 仕方ないよ」 「だって……、誰かと床を共にするのは、二人きりで語り合ったり、キスしたり、恋人らしい時間を過ごした後のことだと思ってたのに。そういう段階を踏まずに、いきなりだなんて、はしたないじゃないか」  薄いシャツ一枚のアーロンにすがりつくと、細身ではあるが、体躯は引き締まった筋肉を纏っており、凛々しい身体つきが感じ取れる。リオは、男らしいアーロンの身体や、彼の発する匂いに欲情している自分に気付き、愕然とした。しかも、自分のすすり泣きは、アルファを誘う甘さすら滲ませている。 「うっ……、ううっ……」  彼を求める熱が暴走しそうな自分を理性で抑えようと、歯を食いしばって声を殺し、かぶりを振る。その時、リオの帽子が落ち、天窓から差し込む月明かりに照らされて豊かな緑髪が輝いた。それを見たアーロンは、一瞬息を呑んで固まった。しかし、(おのれ)の欲との戦いで必死なリオは、彼の反応に気付かない。 「なぁ、リオ。俺は、ヒート中のオメガを何度か近くで見たことがある。これは黙って耐えられるものじゃない。お前が嫌でなければ、俺が手伝おうか。手とか口で。性欲が多少でも満たされれば、少し楽になると思う」 「……アーロンが? こんなところを見られて、僕、恥ずかしいよ」 「泣かないで……。乱れて良いよ。見ているのは、俺だけだから」  彼は優しくリオの耳の横から指を入れ、(うなじ)に向けて髪を梳く。一段と強まるオメガの香りに彼は目を細めた。 「あぁ……、甘い花みたいな香りがする」  細いリオの身体をきゅっと抱きしめ、アーロンは自分の頬をリオの頬に擦り付ける。耳や首筋にアーロンの熱い吐息がかかり、それだけでリオは快楽に震える。 「……もっと触れて良いか?」  アーロンの声は少し掠れ、呼吸も乱れている。アルファがオメガのヒートフェロモンを感じると性的に興奮すると言うが、彼もそうなのだろうか。そっと覗き込むと、彼の頬は赤らみ、物言いたげに少し開いた唇は濡れており、艶めかしい。かすかに頷くと、彼はリオに口付けた。最初は額に。次は頬に。そして唇に。まるで恋に浮かされる若者のような、優しく熱っぽいキスだった。最初は遠慮がちだったが、何度も顔の角度を変えて唇を食まれたり吸われたりするうちに、リオは、アーロンの首に腕を回し、ねだるように自分から唇を押し付けていた。 (気持ち良い……。熱くて、柔らかくて、濡れてて。身体が溶けちゃいそうだ……) 「リオ。俺は、お前が好きだ。初めて会った時も、素直で優しい子だと思った。今日、顔を合わせて、こうして抱きしめ合って、ますます好きになった。お前のことを大切にしたい。だから、今日は絶対、最後まではしない。……いつか時が来たら抱きたいけど。今夜は苦しくても耐えるよ」 「僕も、アーロンが好き……。今日会えるのが、すごく楽しみだった。でも、僕……。今はダメなんだ。妊娠するわけにはいかない」  アーロンは、空き袋を敷いた床の上へとリオを横たえた。痛くないように、頭と背中の下には自分の手を回しながら。 「過去何度か、ヒート中のオメガの傍にいたことがあるって言ったろ? だから分かる。……リオは、俺の運命だ」  アーロンの琥珀色の瞳は、少しでも良くリオを見たいと言わんばかりに色を濃くする。彼は、リオのチョハとシャツの前をはだけ、素肌に指を這わせた。胸の突起が、緊張に身を竦める。軽くその周辺を探られ、摘まみ上げられるだけで、切なげな吐息がこぼれてしまう。感じているのを見て取るや、アーロンの唇と舌が、そこを丁寧にあやしていく。 「ああっ……」  ささやかな尖りを唇で挟んで吸い上げながら、リオのズボンの前を寛げ、下着をずらし、屹立したリオ自身をゆるく握り込む。優しく上下に数回扱かれただけで、リオは甘える子犬のように鼻を鳴らす。 「リオ、感じやすいんだな。これまで、女性と寝たことはある?」 「も、もちろん、あるけど」  王子としての教育の一環で、(ろう)たけた貴族の寡婦(かふ)の指南により、リオは性の手ほどきを受けていた。しかし、アーロンから、うぶな反応を指摘され、リオの頬は羞恥にあぶられたように染まる。アーロンは慌てて言葉を継ぐ。 「そっか、ヒートの時に身体を触られるのは初めてだよな」  この状態は、やはりヒートなのだろうか。話として聞いたことはあったものの、聞くのと体験するのとでは、天と地ほど違う。指南役との(ねや)との違いに、自分の身体が、まるで別人になってしまったような心許なさで、リオは再び、ぽろりと涙をこぼした。 「……ごめん。デリカシーなかった。俺、リオが敏感に反応してくれて嬉しいよ。それに、すごく綺麗な身体だから。誰かに見せたり触らせたりしたことあるのかなって、嫉妬しただけ。馬鹿にしたわけじゃないよ。お願いだから、泣かないで……」  眉を下げ、口をへの字に曲げたリオの悲しげな表情に、アーロンは切なげに囁きながら濡れた睫毛に唇を寄せる。 「やっぱり、ヒートなのかな……。まさか自分がオメガだなんて。それに、前に女の人とした時と全然違う。僕、自分の身体が怖いよ」 「大丈夫。リオは何も悪くない。あまり考えないで、今は、気持ち良さに身を任せていて」  アーロンは、再びリオに優しく口付け、その唇を次第に下へと這わせる。胸の突起に口付けながら、リオ自身の先端から泣きじゃくるようにこぼれた蜜を絡めた指先を、その昂りの根元へと滑らせる。彼の手は、やわやわと双球を揉みしだき、そして背後のすぼまりへと迫っていく。 「ああっ……!」  強い快感に腰が浮く。アーロンは間髪をいれず、リオのズボンと下着を引き下ろす。ブーツはとうに引き抜かれており、やすやすと下半身を剥かれてしまった。 「は、恥ずかしい……」  前を隠そうと、リオはうつ伏せたが、アーロンは背中や腰を優しくさすり、リオの尻たぶのあわいを押し広げる。 「すごく素敵だ」  感嘆の溜め息を漏らし、アーロンは、背後のすぼまりに唇を落とす。神妙に、静かに唇を付けている。彼が動かないので、余計そこがひくひく蠢いているのが際立つ。他人を受け入れたことのない場所にもかかわらず、熱を持ち、潤みに潤んだ蕾は、花開きたがっているのが分かった。貪欲な自分の身体が恥ずかしい。 「アーロン……」  彼の名を懇願するように呼ぶ声は、どこか心細げだ。静かに頷いたアーロンの柔らかい髪がリオの白い双丘をくすぐる。濡れそぼつ蕾を唇で優しく撫でられ、甘い喘ぎ声をあげると、熱くぬめる肉片が内側へと入ってくる。何をされているか気付いたリオは、羞恥のあまり、アーロンのショールに顔を埋めた。一方で腰は自然と高く持ち上がる。 「ふっ、う、んっ……、ああっ!」  異なる感触のものが、更に奥まで入り込んで来た。舌よりも固く、目的や意図を持って動き回る。 「ゆ、び……?」  ぼんやりと呟くと、アーロンが悪戯っぽく耳元に囁いた。 「そう、俺の指だよ。良い子だね、すんなり受け入れてくれた。でも一本だけ。濡れてて柔らかいけど、狭くて、きつそうだから」 「仕方ないだろ……、は、初めてなんだから」 「俺に委ねてくれて、ありがとう。嬉しいよ」  アーロンは、リオの背中に重みを掛けないようにしながら寄り添い、後孔の内側を右手で探りながら、左手をリオの前に回した。育ち盛りの植物のように勢いよく鎌首をもたげて勃ちあがる。後ろに差し入れられた指は、リオの内壁を探っている。ある場所に触れたとき、リオの身体は、若鮎のように跳ねた。 「やっ、ああああっ!」 「リオ……。一度()こうか」

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