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第8話 甘い誘惑

 眉間に皺をよせるリオの姿に、その場の空気を軽くしようと、アーロンが明るい口調でからかう。 「リオ。お前、難しいこと考えてるだろ」 「悪い?」  拗ねた子どものように口をへの字に曲げ、リオが開き直ると、アーロンがクスリと笑った。 「自分一人でどうにかしなきゃいけない時も、もちろんある。でも、頼れる場所とか相手がある時は、遠慮するな。  ……なぁ、リオ。俺はお前にぞっこんなんだ。俺を頼れよ。できる限りのことはする」 「悪いよ。好意に付け込んでいるみたいで」  甘く囁きながら、まるで子どもをあやすように、アーロンがぽんぽんとリオの頭を軽く叩く。 「付け込んで、何が悪い? 俺は、好きな相手から頼りにされるのは嬉しいけどな」  物言いたげに彼を見つめると、無言のまま抱き寄せられ、口付けられた。彼は早くもリオの服を緩め始めている。リオは不満げに鼻を鳴らし、自分から彼の歯列を割り、舌を彼の口に滑り込ませた。 (もっと大人のキスをしてよ)  リオの積極性に、アーロンは煽られる。互いに舌を絡ませ、上顎の裏側をも舌でなぞり、愛撫する。初めての口付けより、快感が高まるのは早い。すぐに呼吸が激しくなり、ハアハアと喘ぎながら互いの唇を貪り合う。キスに夢中になっているアーロンの手が留守になっているのに気付いたリオは、自分の服を緩めようとして、彼に止められた。 「リオ、俺の服を脱がせてよ。もっと近くにお前を感じたい」  大胆な台詞に頬を赤らめながら、リオは、緊張のあまり、にわかに不器用になった指先で、アーロンの服を脱がせた。二人とも着ているのはチョハだから構造はほぼ同じだ。さほど手間取ることもなく上着を脱がせ、シャツの前を開けると、アーロンはもどかしくなったのか、両腕を後ろに突っ張って、自分でシャツを脱ぎ捨てた。慌ててリオも、同じようにシャツを脱ごうとすると、アーロンに袖を引っ張られる。 「お前のは、俺が脱がせたい」 「何それ。自分の服は自分で脱ぐ。僕の服も自分が脱がせるって」  リオが軽く頬を膨らませて拗ねて見せると、アーロンは嬉しそうに目を細め、そしてニヤリと意味深な笑みを浮かべた。 「それくらいの我儘(わがまま)は聞いてくれよ。この後、たっぷり気持ち良くしてあげるからさ」  この後に続く快楽を想像させるように囁き掛けられ、耳をくすぐる優しく熱い吐息に、リオは小さく声をあげて震えた。露わになった胸を合わせると、互いの鼓動が伝わる。 「ふふっ。心臓の音、すごい」 「そっちこそ」  クスクスと忍び笑いを交わすと、アーロンは戯れのように軽く素肌に唇で触れる。ひざまずき、リオのズボンと下着を下ろす。 「ここの毛も緑色だ」  (きざ)した分身を目の前で見られて、リオはうろたえた。 「そりゃ、そうだよ。アーロンだって、髪の色と同じなんじゃないの?」  アーロンはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「じゃ、俺のも見てみる?」 「バカ」  リオが頬を染め、照れ隠しに軽くアーロンの肩を叩くと、彼は含み笑いをしながらリオの分身を舌で舐め始めた。 「あ、ああっ……」  口淫を受けた経験がないわけではない。しかし、アーロンからされるのは、どこか禁忌を犯しているような危うさで、余計に気持ち良い。腰の奥が重だるくなってきた。  唾液や先走りに濡れる雄茎を手で、先端と茎の段差の部分を唇で、それぞれ上下に扱かれる。性器を包み込む熱と快楽に、リオの脚はわなわなと震える。アーロンの肩を掴まなければ、立っていられない。控え目だった声は、いまや絶頂が近づき、盛りの付いた動物のように甘く切ない喘ぎになっている。 「ああ、ああ、ああっ……! もお、だめっ」 「良いよ、()きな」  小さく悲鳴をあげ、身体を痙攣させながら、リオは白濁を吐き出した。 「感じてくれて嬉しい」  アーロンの甘い囁き声に続いて、小屋の外に人の動く気配がした。それも複数人の。リオだけでなく、アーロンもすぐさま気付いたらしい。引き締まった表情で、周りの気配に注意を凝らす。 「アーロン様。そちらにいらっしゃいますね」  押し殺した声が、扉の外から聞こえる。 「ああ。でも、分かっているなら、もう少し気を遣え。通りすがりの発情中のオメガを抱いているだけだ。遊びの時にまで野暮な真似するな。お前らが聞いていると思ったら、(きょう)()める」  アーロンの言い方は不機嫌さを隠さない。しかし、それゆえに人間味もあった。幾ら王族の閨事(ねやごと)が国家の存亡に関わる大事とは言え、人間だ。しきたりとして確認が必要な正式な婚姻の初夜はまだしも、それ以外の場面を覗くのは勘弁してくれ、という彼の気持ちは臣下にも伝わったようで、短く「はっ」と答えた後、彼らは小屋の周辺から気配を消した。 「これで、邪魔な奴らは追い払った。もっと気持ち良いことしようぜ」  アーロンは、リオを後ろ向きにさせ、積み上がった穀物袋に手を突かせた。そっと背後のすぼまりに触れてきた指を冷たく感じたが、すぐに自分の後孔が熱く濡れているからだと気付く。入口のふちをなぞられ、焦らすように指がゆっくりと中に入ってくる。リオが鼻を鳴らしたのは痛みや不快感ではなく、物足りないのだとアーロンは察し、少しずつ強く内壁を擦るように指を抜き差しする。愛撫されると、内から柔らかくほぐれ、更に濡れてくる。快感に喘ぐリオの双丘のあわいに、熱くて太い肉杭が宛がわれた。 (やだ、怖い)  瞬時に身体を固くしたリオを甘やかすように、アーロンは耳たぶに口付けながら囁く。 「中には入れないよ。挟んで。太腿の間で」  女性が月経中などに、そうすることがあるのは、リオも知識として知っている。すぐに得心して脚を閉じた。  アーロンは、ゆっくり腰を前後し始めた。指であやされた内壁は柔らかくほぐれ、湧き出る泉のように蜜が溢れる。太腿まで伝うほどの蜜が潤滑剤の役目を果たし、剛直は密着しながらも滑らかに会陰を前後に行き来する。これまでで一番の快楽がリオを襲う。背後のアーロンも、喘ぎ声をあげ始めた。 「ねぇ……、アーロンも気持ち良い?」 「ああ。こうして指で触りながらだと、リオの中に入ってる気がして、興奮する。すごく気持ち良い」  自分だけが一方的に与えられるのではなく、彼も感じていると分かって、嬉しかった。自然に自ら腰を揺らす。二人の喘ぎ声がハーモニーのように小屋に響く。快感の高まりに、空気すら湿度を増しているようだ。

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