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第14話 運命の番との一騎打ち

 殆ど実戦経験のない貴族の子弟を率いたリオは、旧アルゴン領とティエラの国境の橋の上で、両国を代表してアーロンと一騎打ちすることになった。  ティエラに滅ぼされた祖国を再興しようと、亡き父兄の跡をついで『アルゴン王』を名乗り、精鋭を率いて挑むアーロン。王の装束を身に纏い、悠然と橋の上でリオを待ち受けている。表情は、殆ど(かぶと)で隠されていて窺えない。  山小屋で抱擁を交わした時も、男らしい体格だと思ったが、戦場で見ると、その覇気からか、ひと回りもふた回りも自分より大きく見える。  槍を握るリオの手は、緊張でひどく汗ばんでいた。  自分よりも遥かに強い相手と戦わなければいけない恐ろしさと、  大好きな彼に、(やいば)を向けなければいけない苦しさ。  できることなら、アーロンとの戦いは避けたかった。しかし、王子の立場は、リオに逃げることを許さない。自分の国の名誉を守るために、せめて騎士らしく正々堂々と戦うことしか、彼に与えられた選択肢はないのだ。葛藤を胸に秘め、万にひとつも勝ち目のない勝負に、リオは挑む。  アーロンの胴に槍を向けて走り込むと、彼は、リオの槍を払うように自分の槍を横に振る。その衝撃で、リオの手から槍は飛ばされ、川底へと落ちて行った。すかさず腰の剣を引き抜き、更に間合いを詰める。アーロンは槍を横に振り、穂先を叩きつけてくる。リオは間一髪、剣で弾き返す。落とさせた槍を、すかさず橋の下へ蹴り落とした。 「リオ王太子。噂より、骨のある騎士だな」  アーロンはニヤリと笑みを浮かべ、腰の剣を抜いた。リオは両手で剣を構え、軽い身体を活かし、アーロンの懐へ飛び込んでいく。片眉を軽く引き上げ、彼は更に意外そうな表情を浮かべた。 「ここまで長剣(ロングソード)を使いこなすとは。なかなか鍛錬しておられるな」 (くっ......。こっちは必死だっていうのに。アーロンは顔色一つ変わらない。これじゃ、時間の問題でやられてしまう......!)  至近距離で彼の琥珀色の瞳を見つめると、こんな状況だというのに、山小屋で彼と抱き合った時のことを思い出してしまう。一瞬、攻撃の手が緩む。すると、アーロンの剣が、リオの鼻先を掠める。はっと気を取り直し、がっちりと刃を合わせる。  リオより体格に恵まれたアーロンの太刀筋(たちすじ)は重い。受け止めるだけで精一杯だ。それでも、リオは怯むことなく、自分から攻撃を仕掛けていく。  それぞれの双肩に自国を担う、弱冠二十歳の王と王太子は、互いに一歩も譲らない。振られる剣は、火花を散らすほど鮮烈だ。体格差こそあれ、自分の国に対する思いの強さで、二人は全く互角と言えよう。両国の騎士団も固唾を飲み、瞬きすら惜しんで見守っている。  リオに少し疲れが見えてきた時、戦局は動いた。剣を握る手に緩みを見たアーロンは、鋭く横に剣を振り、リオの手から剣を吹き飛ばした。勝負あったか、とティエラ騎士団が覚悟した次の瞬間。リオは、素手で猛然とアーロンに飛び掛かった。  アーロンはバランスを崩し、リオを道連れにするかのように抱え込む。二人は(もつ)れ合ったまま、橋から転落し、濁流へと飲まれていった。

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