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第15話 束の間の逢瀬 (1/2)

 意識を取り戻したリオは、ごつごつとした岩の洞穴に横たわっていた。身体の下にはアーロンのマントが敷かれており、目の前には、甲冑を脱ぎ捨て、上半身裸のアーロンが、焚火にあたっている。 「おっ、リオ。気がついたか? どこか痛くはないか?」  山小屋で会った時のような、親しげで優しいアーロンの笑顔に、リオは一瞬混乱し、パチパチと何度か瞬きを繰り返した。そんなリオを見て、アーロンはくすりと笑った。 「お前が飛び掛かってきたから、抱き込んで、そのまま橋から川に飛び込んだ。揉み合って、落っこちた(てい)でね」  ゆっくり身体を起こしながら、リオは、自分も半裸であることに気付いた。アーロンが、重い甲冑や濡れた服を脱がせてくれたのだろう。 「アーロン......。ごめん。君とは戦いたくなかった。でも、同い年で王の君が一騎打ちに出てきたのに、王太子の僕が戦わないわけにはいかなかった」  アーロンは、ゆっくりかぶりを振り、微笑みながら打ち明けた。 「分かってる。俺が一騎打ちを申し入れたのは、お前を守るためだったんだ。乱戦になれば、俺の力ではお前を守れない。両国の代表として戦って見せて、適当なところで、揉み合ったふりで一緒にダイブするつもりだった」 「それならそうと、最初から教えてくれたらよかったのに!」  鼻白むリオに、アーロンはおかしそうに笑う。 「そういう訳にはいかないよ。両国の騎士団を納得させるぐらい、真剣に戦わないと。  リオ、大したもんだったぜ。俺の師匠は、史上最強と言われる剣豪なんだ。だから、アルゴン騎士団にも俺と互角に戦える剣士はいない。リオがあそこまで戦ったのを見て、みんなも度肝を抜かれたと思う。  ......でも、途中、俺に向かって剣を振るうの、躊躇しただろ」  会いたくてたまらなくて、夢に見るほど恋しい人が、今は手を伸ばせば触れられるほど傍にいる。二人は(まばた)きする間も惜しんで見つめ合った。何も言葉を発さないまま、身体を寄せ合い、唇を重ねた。 「ああ......。会いたかった、アーロン」 「俺も会いたかったよ、リオ」 「君と戦場で敵として向かい合い、殺し合わなきゃいけないなんて悪夢のようだった」  互いに愛おしげに髪や頬に触れる。自分の剣が、恋しい人を貫くまで戦わなければいけないのかと、苦しみ悩んだ後だ。リオは、自分の指先が感動で震えているのに気づいた。こうして気持ちを伝え合い、触れ合える喜びを、この上ない幸せとして二人は分かち合う。  ひとしきり再会した恋人同士の睦言を交わし合うと、二人は王と王子の真剣な表情に戻る。 「リオ。俺はエンリケを、お前の兄貴を殺しに行く。親兄弟の仇だからな。でもお前を巻き込みたくない。......俺と一緒に来ないか?」 「兄のしてきたことは間違いだと思う。でも、彼に過ちを正す最後の機会を与えたいんだ。それでもダメなら......。国を建て直すのは、僕の責任だ。だからアルゴン国王についていくことはできない。僕はティエラの王子だから」  リオだって、本当は、何も考えずに、大好きなアーロンの胸に飛び込みたい。しかし、兄がティエラを導く責任を果たさないなら、国をあるべき道に引き戻すのはリオにしかできない役目だ。両親や臣下たちのことを思うと、その責任を放り出すわけにはいかない。  今更ながらに、自分がただの一人の青年ではなく、大きなものを背負っていることを痛感する。  それは、目の前のアーロンも同じだ。彼がアルゴンの王子でなければ、若くして両親を戦争で奪われることも、圧倒的な大国であるティエラに身体一つで戦いを挑むことなど、なかっただろう。 「......たぶん、リオはそう言うだろうと思ってた。気高くて勇気があって、でも優しくて。立派な王子だ。そういうところにも、俺は惹かれたんだ」  アーロンは、静かな諦観を湛えた小さな笑みを浮かべ、リオの頬を撫でた。そして指先を胸元に落とす。 「俺のネックレス、付けてくれてたんだな。すごく嬉しかった」 「僕の心はアーロンのものだよ。ティエラの旗を背負って戦っている時も。君のネックレスは、あれからずっと肌身離さず、心臓の近くに付けている」  アーロンは、リオの胸に手を置いたまま、リオの瞳を覗き込む。 「この先、俺たちは、どうなるか分からない。どちらかが、あるいは二人とも、明日死ぬかもしれない。せめて、この一夜だけでも良い。リオ、お前を俺にくれないか......?」  自分との絆を(こいねが)うアーロンの真剣な表情に、リオは躊躇なく頷いた。そして少し甘えるような声で囁いた。 「もちろんだよ。僕にも、アーロンをくれるよね?」  二人は笑みを交わし、優しく抱き合い、唇を貪り合い、(もつ)れながら地面に倒れ込んだ。

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