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第16話 束の間の逢瀬 (2/2)

 リオを組み敷いたアーロンは、怖いくらい真剣な表情だ。 「ねぇ、なんで、そんなに怖い顔してるの?」 「......緊張してるからに決まってるだろ」  彼は拗ねたように口を軽く尖らせる。 「アーロン、したことあるんでしょ?」 「好きな相手とするのは、初めてだ」  アーロンの告白は、ぶっきらぼうな口調だったが、率直なだけに、リオの胸をときめかせた。無言のまま、彼の話の続きに耳を傾ける。リオが聞く姿勢なのを見て、アーロンはぽつりぽつり言葉を継いだ。 「リオも、そうだったと思うけど、年頃になると貴族の後家さんが手ほどきしてくれた。だけど、それ以来、『この人を抱きたい』と思える相手はいなかった。こないだヒートの時にリオの身体に触ったけど、あんなに気持ち良さそうで濡れていたのに、すごく狭かったから。ちゃんと気持ち良くしてあげられるのかなって。リオに痛い思いなんてさせたくないし」  無理やり笑顔を作るように、彼はぎこちなく唇の端を持ち上げた。リオは、自分を思いやって緊張している彼を愛おしく思った。彼の額にかかる髪を梳いてやり、耳に掛ける。そして、頬に優しく口付けた。 「優しいね、アーロン。でも、気にしないで。だって、僕ら生死の瀬戸際にいるんだよ? 好きな人と繋がるのに、多少の痛みなんか、どうってことはないよ」 「まぁ、確かに、死ぬのに比べればな......。ありがとう、リオ。とは言え、これが最初で最後かも知れないから、ベストは尽くすよ。少しでも良い思い出にしたい」  極端なリオの言い分に苦笑しながらも、身体を重ねられること自体が嬉しいという恋人の健気な言葉に勇気付けられ、アーロンは少年のような笑顔に戻った。二人は巣の中で身を寄せ合う動物のようにぴったりと胸を合わせて強く抱き合った。 「ねぇ、アーロン。好きだよ」 「俺も、リオが好きだ......」  肌と肌が触れ、唇と唇が重なり、甘い吐息がこぼれると、互いに体温が上がる。自然に肩の力が抜け始めた。ためらいがちでぎこちなかったアーロンの手は、次第に滑らかにリオの身体の上を動き回り、リオは素直に快感の溜め息を漏らす。 「ふあぁあ」  胸の柔らかく小さな突起を摘まれたリオは思わず声をあげた。リオが身体を震わせたのを見て、アーロンは満足気に周辺の肌も撫でさする。 「僕の胸なんか、平らなだけで何にもないから、見ても触っても、つまらないでしょ?」  胸をじっくり愛撫され、身体の芯がじわじわ熱くなる。うっとりと快感に身を委ねたくなるが、ふと、山小屋での会話を思い出して、拗ねたような言葉がこぼれた。前回は、オメガのフェロモンに興奮したかもしれないが、彼は元々女性らしい曲線が好みのはずだ。リオの身体をどう感じているのだろう。少し不安だった。 「そんなことないよ。リオが俺に身体を預けてくれて、気持ち良さそうにしてくれるのを見るのは堪らない。すごく嬉しい」  アーロンの声は少し低く、興奮を抑えようとしているようだ。自分の身体に彼が興奮していると分かり、リオは嬉しさを感じた。彼の琥珀色の瞳は金色に光っている。雄の狼に魅入られたようで、リオの背筋はぞくぞくする。唇と舌であやされた胸の(いただき)は、小さいながらも硬くしこって立ち上がる。  同時に、雄茎も芯を持ち始める。前回アーロンが与えてくれた丁寧な愛撫を、リオの身体は覚えている。彼の熱い肌が擦れると、早く快感が欲しくて、前からも後ろからも蜜が滲む。声と吐息をこらえようと、手の甲で顔を覆うと、やんわり除けられた。伏せた瞼の上で、リオの長い睫毛が震える。  元々下着しか身に着けていない二人だ。身体を寄せ合えば、互いの屹立にすぐ気付く。リオの身体をまさぐり始めて間もなく、アーロンの中心も主張している。 「アーロンの、大きいよね......。入るかな?」 「痛くても良いって、さっき言ってたのに」  抱擁を始めた時とは打って変わった弱気なリオの言葉に、アーロンは噴き出したが、根気強く愛撫を続けている。リオの身体を全て愛おしみたい、感じさせたいと言わんばかりに、隅々まで唇を押し当て、舌で撫でた。気持ち良いやら、くすぐったいやらで、リオは身体をよじって甘い声をあげる。リオが自ら下着の紐に手を掛けたのを、アーロンは見逃さなかった。脱ぎかけてためらうリオの背中を押すように囁きかける。 「さあ、リオ。全部、俺にくれるね?」  頬を赤らめながらリオが自ら下着を脱ぐと、アーロンはすぐさま中心に顔を寄せる。躊躇なく、屹立したリオ自身を口に含み、しっとりと夜露に濡れたような蕾を指で撫でつける。 「ああっ......」  ゆっくりと温められたリオの身体は従順にアーロンの指を受け入れる。入口を広げるように、中で複数の指がうごめくのを感じる。気持ち良くて、恥ずかしくて、リオは言葉にならない声をあげ、内壁はきゅっとアーロンの指を締め付ける。 (僕らは、明日をも知れない命。どんなに愛し合っても、二度と会えないかもしれない) 「アーロン......。僕にも君をちょうだい」  感極まって涙を浮かべ、震える声でねだるリオを仰向けに横たえ、アーロンは無言でリオの後孔に熱い昂りを押し挿れた。 「くっ......、はあっ......」  初めて男を迎える初々しい蕾は、緊張と圧迫感に震えながらも、健気に愛しい人を受け入れようとする。 「リオ、大丈夫?」  顔をしかめ、唇を噛み締め、一杯一杯の表情を浮かべるリオは、とても快感とは程遠い。アーロンは、切っ先を挿入しただけでその場に留まり、申し訳なさそうにリオのこわばった肩を撫でる。 「アーロンのせいじゃないよ。僕も慣れてないから」 「リオが、こういうことに慣れてたら、ちょっと......。いや、すごく嫌だな。俺」  正直なアーロンの言葉に、リオも噴き出す。 「俺も、自分がこういうこと気にする男だと思わなかった。過去仲良くした令嬢もいたし、その娘らが、俺を嫉妬させようとして他の男のことを匂わせてきても、全く気にならなかった。でも、リオが他の誰かと見つめ合ったり、キスしたり、抱き合ったりするのは嫌だ。俺だけのものでいて欲しい......」  ゆっくり腰を進めたアーロンは、奥まで挿入したところで、一度リオを抱きしめた。肌をぴったりと重ねて、安心させてくれる。  すべらかな肌の感触と温もり、彼の匂い。熱い呼吸。興奮と歓喜を訴える早い鼓動。言葉はなくとも、彼の全身から愛を感じる。リオは溜め息をついた。身体の緊張がゆるむのを感じ取ったアーロンは、リオを抱えながら、優しく腰を揺すり始めた。身体の奥深く、繊細なところを固い肉杭で擦られ、窮屈で苦しい。だが、隙間なく密着する感触は気持ち良くもある。そして、愛しい人とひとつになれた喜びと満足感が胸を満たす。 「僕、今、こんなにアーロンの近くにいる」  小さく呟くと、アーロンは表情を歪めた。彼の目からこぼれた涙が、リオの頬を濡らす。 「リオとひとつになれて、俺も嬉しい」  涙を見せたことが気恥ずかしかったのか、彼は小さく照れ笑いを浮かべた。気持ちが昂った彼の律動は、次第に激しくなる。強く腰を打ち付ける彼の少し眉をひそめた苦しそうな表情や、逞しい腹筋が動くさまは、セクシーな大人の男そのもので、リオをときめかせる。二人の甘い吐息は、あっという間に切ない喘ぎ声に変わった。 「うう……んっ、は、あ......っ......」 「はっ、ああ......。ねえ、リオ、気持ち良い?」 「えっ......? 見て分からない?」 「分かるけど。言って欲しいんだ。リオの口から聞きたい」  少し鼻に掛かった、甘えるような声で、アーロンはリオにねだる。親に褒めてもらいたがる少年みたいだ。リオは思わず頬を緩めた。 「んんっ......。気持ち良いよ。とっても」 「ああ、嬉しい......。俺も気持ち良い」  リオに『気持ち良い』と言わせて得意げな彼は、天真爛漫(てんしんらんまん)な少年そのものだ。 「アーロンって、キリッとした王の顔とか、僕を抱いて気持ち良さそうな時の顔は大人っぽいけど、悪戯っ子みたく笑う時とか、今みたいに得意そうな時は、急に少年ぽくなるね」  それを聞いたアーロンは、少しムスッとした表情を浮かべた。耳が赤い。 (あ、照れてる) 「......僕は、どちらのアーロンも好きだよ」 「リオ、余裕綽々(しゃくしゃく)だね。......俺、もっとリオを狂わせたい」  再び火が付いたアーロンは、リオの奥深くを抉るように抽送し始めた。

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