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第20話 卑劣な謀略

 ティエラからの馬車は、ルシアスとの国境まで行く。そこで、ルシアスからの迎えの馬車に乗り換えることになっている。しかし、乗り換え地点の近くに馬車が差し掛かった時、急に馬の足並みが乱れた。 「御者(ぎょしゃ)の様子を見てくれ」  口数少なに従者に命ずるリオの手は、既に腰の剣に掛かっている。 「......御者は、弓矢で射抜かれております!」 「一名は御者の代わりに馬を走らせろ! 僕は盾を構えながら援護する! 他の者たちは反撃しろ! ……ここじゃ、敵から狙われ放題だ。戦うにしても場所を変えよう」  哀れにも真っ先に狙われた御者は、既に事切れていた。矢をかいくぐり、馬車は必死に駆けた。しかし、いかんせん多勢に無勢。馬をも射られてしまった。リオと従者たちが馬車を捨てて逃げようとすると、追っ手は、真っ先にリオの影武者を捕らえた。 「やめろ! そのお方に何をする!」  リオが叫ぶと、ならず者どものリーダーと思しき男が振り返り、ニヤニヤした。 「お前らに用はねぇよ。有り金置いて、とっととティエラに帰りな。命は助けてやるよ。今回は雇い主の金払いが良いんでね。俺たちは、この綺麗なおべべのオメガの坊ちゃんを丁重に可愛がってやれって頼まれてるんだ」 「なんだと......?」  リオは絶句した。彼らの振る舞いや装備を見るに、軍人ではなく、追い剥ぎなどが生業(なりわい)の素人に見える。言葉の訛りからして、ティエラではなくルシアス国側の人間だろう。  リオがこのルートを通ることを知っている者で、ティエラと無関係の素人にリオを襲わせて、喜ぶ者。 「......兄上か」  いったん口に出すと、驚くほど腑に落ちた。 (この国境近くなら、「襲ったのはルシアス国の強盗だ」と言い逃れることができる。しかも、ルシアス国内で襲われたとあれば、傷物だとティエラに返すわけにもいかない。援助は約束通り行えと迫るつもりだろう。憎い弟は、下衆な皇太子が相手であっても無垢なまま渡す気はない。蹂躙(じゅうりん)してやるから生き恥を晒せと言いたいのか)  腹の奥底から、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。こんな卑劣な策を企て、金を払ってまで血の繋がった弟をなぶり者にし、喜んでいる兄のさもしさ。そんな男が王で良いのかという憤りで、目の前が真っ赤になりそうだ。 「待て! その男は、お前たちが(さら)えと命ぜられたオメガではないぞ! それは僕だ!」  かつらを脱ぎ捨て、緑髪を風に(ひるがえ)す。従者も慌てて緑のかつらを脱いだ。 「......なんだって? せっかく逃げられるチャンスだってのに、子うさぎ自ら罠に掛かるたぁ。お人好しなのか、それとも、こんな可愛い顔して実は好き者なのか? ん?」  ゲラゲラと嘲り笑う男たちを、憤然と睨み返し、リオは一歩踏み出した。 「お坊ちゃん。腰の物騒なモンは、捨ててもらおうか」  剣の柄に手を掛けながら息をつき、肩の力を抜いて周りを見渡す。リオの臣下はわずか数名。素人とは言え、ごろつき集団は十名以上いる。人数的には圧倒的に不利だ。 (どこかに、打開策はないか?)  リオは、目まぐるしく頭を働かせる。

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