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【番外編】運命の番・新婚初夜 - 第1話
「よう、リオ」
リオの寝室の入り口には、今日結婚式を挙げたばかりの夫・アーロンが、白いナイトガウン姿で立っている。
「……入って良いか?」
少し遠慮がちに聞かれ、同じく純白の美しいナイトガウンに身を包んだリオは、頬をうっすら染めて小さく頷く。部屋を見回しながら入って来たアーロンは、両手でリオの頬を包み込み、軽く口づける。しかし、ベテランの王宮侍女が、これ見よがしの咳払いで遮った。
「アルゴン国王アーロン陛下とティエラ国王リオ陛下の、お床入りでございます」
国王同士の結婚とあって、初夜のリオの寝室には、両国の侍女たちは勿論、大司教とその部下の司祭たちまでもが顔を揃えている。大勢が見守る中、神妙な表情で二人はベッドに入る。
「……それでは、私どもは控えの間にて」
二人がきちんと事を成し遂げたか、つまり、夫夫 として身体も繋げられたかどうか確認する役目の者たちは、隣の部屋で聞き耳を立てているのである。
王族や貴族の結婚は、政略結婚が一般的だ。従って、愛情の有無はともかく、肉体的な繋がりを結婚の成立要件とするのがしきたりになっている。
リオとアーロンが、珍しくも恋愛結婚であることは臣下のみならず国民にまで知られている。とは言え、互いの(特にリオの)名誉のため、二人が既に結ばれていることは、二人だけの秘密だ。夫夫として公に認められるためには、宮廷のしきたりに従い、交合の成立を臣下に示さなければならない。
「はぁ……。王族の義務とは言え、とんだ羞恥プレイだよな。リオ、大丈夫か?」
アーロンは、軽く口を尖らせて不満げな表情をチラリと控えの間のほうに向けたが、ずっと無言でいるリオを気遣い、優しく声を掛けた。
「え、大丈夫って、何が?」
「そんなに緊張するなよ。どうせアイツらも、最初の一回は聞き耳立ててるだろうけど、その後は放っておいてくれるだろうからさ」
隣の部屋に大勢の人がいて、自分とアーロンの営みを聞いているのだ、と改めて実感し、リオは羞恥のあまり涙ぐんだ。
「うっ……。は、恥ずかしい……」
緊張のあまり、ぼうっとして、アーロンの言葉も耳に入っていなかったらしいリオに、アーロンは苦笑した。注意を自分に向けさせて恥じらいを取り払おうとしてか、肩を抱いて、なおも話し掛ける。
「こんな立派な天蓋付きのベッドでリオと一緒に寝れるなんて、夢みたいだ。初めてキスしたのは穀物小屋だったし、初めて抱き合ったのは洞穴の固い岩の上だったからさ。今思うと、庶民よりひどいよな?」
過去の逢瀬を思い出し、クスクス笑うアーロンに、リオも思わずつられて微笑んだ。
「さ。あんまりアイツらを待たせるのも悪いし、ちゃっちゃと義務は果たそうぜ。一回最後まですれば、どうせみんな興味ないだろうから、後は、リオのお望みのままにしてあげる」
アーロンは、花婿だけが所有する鍵で、おもむろにリオのネックガードを外す。
「なっ……。アーロン! ちゃっちゃと、って何だよ!」
「え? リオが恥ずかしがるから、手短なほうが良いかなって思ったんだけど。もし聞いてる奴らのほうが困っちゃうぐらいアンアン言わされたいなら、俺、最初から本気出すぜ。どっちが良い?」
迫るアーロンの瞳には、既に欲望の色が光っている。どちらにせよ彼は、リオと堂々と抱き合える今夜、思う存分、花嫁の身体に愛を刻み付けたくて、うずうずしているのだ。
リオがもじもじと俯き、落ち着かない様子で視線をさまよわせると、アーロンは肩に回した手に力を込め、リオの耳元の髪にもう一方の指先を潜り込ませながら、熱っぽく口づけた。顔の角度を変えながら何度も口づけられているうちに、リオの身体からは力が抜け、うっとりとキスに応えるようになった。甘い吐息をつきながら、アーロンの背に手を回す。アーロンは、リオの首筋に鼻先を擦りつけ、そしてオメガの急所である項 に強く吸いついた。
「ああっ……。アーロン」
リオは切なげな声をあげてアーロンに身体を擦り寄せ、しがみついた。
ナイトガウンの上から胸元を指で探られ、リオは仔犬のように甘えた声で鼻を鳴らす。アーロンの腕の中でぴくぴくと身体を捩る。すぐに小さな尖りがぷくりと姿を現した。アーロンは恭しい手つきでそっと胸元のリボンを解き、ボタンを幾つか外し、素肌へと唇を落とす。
「リオ、今日は、どこもかしこも、ぴかぴかだな。ナイトガウンも、姫君のドレスみたいに綺麗だし」
「……身体もガウンも、綺麗にしないと、花婿に失礼だって言われた」
結婚式が終わって私室に引き上げた途端、リオは何人もの侍女にかしずかれて湯浴みさせられ、後孔の中まで洗われて香油を塗り込められ、レースやフリルで飾られた純白の豪華なナイトガウンを着せられた。自分だけのことなら、こんな形式ばったことはやめたいと言えても、花婿のアーロンに恥をかかせるわけにはいかない。運命の番であり最愛の人と結ばれるためなら、これまでの苦労を思えば、こんな些事、どうってことはない。そう自分に言い聞かせた。
短い言葉だったが、リオの気持ちが伝わったのか、欲望に濡れていたアーロンの瞳に、リオをいたわる優しい色が浮かんだ。
「俺も、気恥ずかしくて、ここに来るのは普段のナイトガウンで良いだろって言ったんだ。そしたら、花嫁に対する侮辱だって、えらく叱られたよ。だから今日は柄にもなく、侍女に従って、真新しいのを着てきた」
アーロンは、自分のナイトガウンの胸元を指先で掴んでおどけたように持ち上げ、優しくリオに微笑み掛けると、それを脱ぎ捨てた。そしてリオのガウンを、壊れ物を扱うようにそっと脱がせた。
「……皆の手前、照れ臭くて、『ちゃっちゃと済ませよう』なんて言って、ごめんな。やっと柔らかくて温かいベッドで安心して抱き合えるんだ。うんと気持ち良くしてあげる」
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