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第20話 三人寄らば……?

味方でいるとは言ったものの、はたして何をしてやれるのか。 考えた結果、俺は…… 丸投げすることにした。 いや、丸投げと言えば聞こえは悪いが、つまりあれだ、外注だ。適材適所だ。こういう事に関して俺よりも確実に適任がいるんだから、最良の結果を得るためにはこうするのが一番いいわけだ。 決して自分では何も思いつかなかったとか、そういうわけではない。……決して。 そんなわけで依頼をかけて四日目の放課後。俺と美鳥は藍原晃に数学準備室に呼び出されていた。 美鳥も今日は放課後の練習はパスして俺の隣で姿勢正しく座っている。 「さて、とりあえず要点を整理しようか。」 以前と同じく勝手知ったるなんとやらで俺たちにコーヒーを入れた晃は、机を挟んで俺達に向かい合うように腰を下ろした。 ちなみにこの部屋の本当の主は我関せずと部屋の隅でパソコンに向かっている。 「まず問題なのがそもそも大会に出場出来る環境が整ってない事。」 晃が人差し指をピンと立てる。 あの日、俺達は寮に帰宅してから俺の提案で晃に事の次第を全て話したわけだが、一番問題になったのがそこだった。 「大会に出場するのにどこかのクラブチームに所属しなきゃって話だけど、それに関しては源さんが名前貸してくれるって事だったから、手続き等は僕らでやるからね。美鳥君は気にせず練習に専念すること。」 「あの、でもそれは…」 「で、二つ目。」 美鳥の言葉を遮って、晃はぴっ、と二本目の指を立てる。 「畔倉アイスアリーナに頼りきりで申し訳ない、っていう精神的な問題。」 晃の言葉に美鳥はこくこくと盛大に頷いた。 美鳥にとってはこれが一番負担になっているようだ。 普段の練習は金銭を一切受け取って貰えないにもかかわらず自由にさせてもらっている。その上大会に関する協力を頼むなどとんでもないと今まで足踏みしていたらしい。 「つまりは金銭的な問題ってことでしょ?」 「まぁぶっちゃけそうだよな。」 「だったら、お金は持ってるところから巻き上げればいいわけよ。」 物騒な発言と共に机の上に一枚の書類が差し出された。 俺達はほとんど同時に軽く身を乗り出し、内容を確認する。 「なんだこれ。」 「部活……?」 新規部活動設立申請用紙。表題にそう書かれた書類には既にスケート部の部長として晃の名前が記入されている。 ちなみに、顧問の欄にはしっかりと木崎の名前と印が押されていた。……哀れな。 「部活動として申請すれば、当然部費が出るわけですよ。まぁ、来年からは五人以上の部員が揃わないと同好会格下げで部費もないけどね。」 まさかの発案に美鳥は口をぽかんと開け、目を丸くしている。 「部活動となれば、講師も申請できる。源さんに講習会費として学校から賃金も出ちゃうのよ。」 まさかこんなやり方があったとは。確かにこれなら俺たちはじめ、美鳥への金銭的負担はない。……ほとんど詐欺に近いやり方な気はするが。 「けど、これ承認してもらえるのか?学生として大会に出るわけでもないし、校内で活動なんてしないだろ。」 「承認してもらうんじゃなくて、するんだよ。そんなわけで、こっちにも署名よろしく。」 そう言って晃は机の上にもう一枚の書類を差し出してきた。 俺と美鳥はやっぱり同じように書類の内容を確認して、ほとんど同時に晃に視線を向ける。 「生徒会役員選挙って、お前これ。」 「ほんと、ちょうどいいタイミングで話持ってきてくれたよねぇ。」 生徒会役員選挙立候補受付用紙。 太字で記載されたその下には会長職の立候補を希望する旨と、晃の署名があった。こちらも担任として木崎の署名と印が既に押されている。 「立候補には担任の承諾と推薦者が二人必要なんだよね。というわけで、よろしくー。」 ずいっ、と目の前に用紙を突きつけられれば、俺としては断る理由はない。 一応内容を確認したが、スケート部の部室として第二音楽室をちゃっかり希望しているあたり、こいつは本当に抜け目がない。 ドヤ顔で差し出されたボールペンを俺は無言で受け取ったのだが…… 「美鳥?」 書類に視線を落としたまま美鳥は動こうとしない。 じっと書面を眺め、そうしてその視線が申し訳なさそうにゆっくりと晃へと向けらる。 「あの、これだと藍原君に負担が…」 「美鳥君。」 突然席を立った晃が、美鳥の前に歩み寄る。驚いてびくりと肩をふるわせた美鳥の前で膝をつき、がしっとその手を取った。 両手の手を 包むように握りしめ、大きな瞳がじ、と亜麻色を見上げる。 「美鳥君。僕ね、……内申点が欲しいんだ。」 「……え、」 至極真面目な顔から飛び出した言葉に、美鳥は固まった。 「来年はいよいよ受験生だもん。進学のために部長と生徒会長って肩書きが欲しい。」 美鳥の前に膝をつき、その手を握り。 ねだるように上目遣いで見つめてくるその仕草は、昔から何度も目にしている。こんなんで騙さる奴がいるのかよと思うのだが、晃の場合そもそも断るという選択肢を毎回用意して貰えない。 「……協力、してくれないかな?」 じ、と亜麻色をのぞき込み、ほんの少しだけ不安に表情をくもらせれば……まぁ、馬鹿のつくお人好しさんは首を縦に振るしかないわけで。 「あ、えっと、……僕に出来ることなら…」 何かがおかしいと首をひねりつつ、頼まれ事は断れないのだろう美鳥は晃に差し出されたペンを手に既に記入を終えた俺の名前の下に同じように署名をする。 書類が全て埋まったのを確認し、晃はニヤリと満足そうに笑った。俺と美鳥の間に入り、ペシペシと肩を思いっきり叩かれる。 「じゃ、選挙期間は来週一週間なので、ポスター貼りとかお手伝いよろしくね!あと、立会演説は推薦者もスピーチいるから。」 「げ。」 確かに頼んだのは俺だ。 でもこれは……悪魔との契約だったんじゃないか? 俺は既に署名をしてしまった二枚の書類を視界の隅に入れながら、盛大にため息をついた。 部屋の隅から同じような吐息が漏れ聞こえてきたのは、きっと気のせいじゃないだろう。

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