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第41話 星降る夜に

寮の一階、エントランス奥にある食堂は、朝夕の二回利用が可能だ。 ある程度の固定メニューと二種類の日替わりメニューから選択し、足りない者は小鉢二品までなら毎月支払っている寮費で賄える。それ以上はその場で実費を払うシステムだ。 夕食は放課後から消灯時間三十分前までなら何時でも利用できるので、全寮制で利用者の多い男子寮でもそこまで混雑することなく快適に利用できている。 ここ最近は時間を合わせて晃と美鳥の三人で顔を突合せて夕食をとるのがお決まりになっていた。 「とりあえず、明後日の雑誌の取材で依頼きてる分は全部終わりかな。新規はきてた?」 「いや、今日は電話の問い合わせは特にきてなかったな。あとでメールもう一回チェックしとく。」 食事をしつつの打ち合わせ。三人で顔を合わせることが日中ほとんどないため、いつの間にかこうして食堂で情報共有するのが日常になっていた。 「美鳥、疲れてないか?」 「うん。でもそろそろ休息とるようにコーチから言われてるし、取材がないなら明日はオフにしようかな。」 「それがいいよ。たまにはゆーっくりしなきゃね。」 あの日から美鳥を取り巻く環境は変わっていった。 週明け、予定通り生徒会長に当選した晃は所信表明演説もそこそこに、全校生徒へマスコミに対するルールを決め、協力を促した。 映像が必要な取材に関しては、源さんが宣伝にもなるからと畔倉アイスアリーナでの対応を受け入れてくれたため、彩華周辺での強引な取材などは見かけられず生徒達にも大した混乱は起きなかった。それどころか美鳥や晃の人望のおかげか、周りの人間の多くがこの状況に協力的だ。 少なからず学校に厄介事を持ち込んでいるのだから、教師陣から反発の声のひとつも上がりそうだが、そちらはおそらく木崎が上手く抑えてくれているのだろう。 基本的に全ての取材の依頼に答えるというきちんとした対応が功を奏したのか、アポ無しや強引な取材はすぐになくなり今では美鳥も晃のサポートで取材をこなしつつ、今までとほぼ変わらぬ生活が戻ってきているようだと……少なくとも遠目からはそう思えた。 「あ、明後日の取材だけど色は絶対校内と寮から出ないようにね。その時間帯僕らに連絡取るのも禁止。」 「あ?明後日ってどこからの取材…」 「カイハミュージックエンターテインメント。……は、当然知ってるよね?」 「……月刊ピアニッシモか。」 思わず漏れてしまった深い溜息に、晃はくすりと楽しげに笑う。 実の所俺は最近美鳥達とはほぼ行動を共にしていなかった。マスコミもどこでどう繋がっているかわからない。 取材に来た人間に俺の顔を見られないよう晃や美鳥が気を使ってくれているおかげで、俺に出来ることといったら学校のホームページを通して来た取材依頼の応対くらいのものだ。 だから美鳥がどこの取材を受けたのか、どんな受け答えをしたのか、本人の口からよりテレビや雑誌を通して知ることの方が多い。 「あの、フィギュアスケートと音楽についてっていう取材らしいんだけど、」 「知ってる。俺の方にも同じ内容で取材の依頼がきたって彗さんが。」 「うわ、二人とも絶対ボロ出さないでよ?源さんと立華さんにも根回ししとかないとね。」 「俺の方は質問内容にメールで返事返すくらいだし、彗さんに校正も入れてもらうから問題ないと思うけど……」 チラリと視線を隣に移せば、美鳥は頭を抱えううっと小さく唸り声をあげる。 「ぜったい、絶対に櫻井君に迷惑かけないようにしなきゃ……」 今回の取材に限らず、それは最近美鳥の口癖になりつつあった。 思いがけず三笠先輩に知られてしまった事に罪悪感を感じているらしく、今後は絶対に同じ轍は踏まないとあの日以降一人気を張っている。 あれはほぼ俺自身のせいだし、源さんや立華は俺の正体に気づくには至っていないようだし気にするなと言ってはいるのだが、取材がある日どころか普通に練習を見に行くことすら断られている状況だ。 俺よりも晃や時折顔を出してはアドバイスをくれる彗さんの方が上手く立ち回ってくれるし、定期的に指導に訪れるようになった立華が美鳥のそばにいて取材の一部も引き受けてくれているようだし。 まぁ、そもそも俺は必要ないんだろうけど。 「あはは、じゃあ明日は台本作って特訓だね。」 「ううっ、よろしくお願いします。」 晃の言葉に、唸りながらも美鳥は小さく頷いた。 ちくりと感じた息苦しさに、俺は無意識にまた深く息を吐く。 「おうおう、どしたのため息なんてさ。」 「も、もしかして既に何かご迷惑を…」 「あ、いや。そんなんじゃないから気にするな。」 聞かれたって俺にもわからない感情。 もやもやと胸の内にあるそれは日を追う事に膨らんで、気を抜けば口から重く漏れ出てくる。 心配そうに眉を寄せる美鳥に大丈夫だと作り笑いをしながらも、俺の心臓はやっぱりつきりと痛みを訴え、ため息を吐かずにはいられなかった。

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