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閑話 お人好し二人の秘めたる話 2

「じゃあ、僕は隣の部屋にいるからね。何かあったら呼ぶなりスマホで連絡するなりするんだよ?」 美鳥君の気持ちが落ち着くのを待って、僕は美鳥君の部屋を離れた。 シャワー浴びてくるというのは口実で、実際は隣の部屋の後始末と、それから…… パタンとゆっくり扉を閉めてから、美鳥君に気づかれないよう僕はそこで待ってくれていた人にごめんねと小さく声をかけた。 腕を組み、壁によりかかっていたその人はチラリと僕に視線を移す。 いつものスウェットにTシャツじゃなくて、ワイシャツにスラックス、ネクタイまでしたままなのは、僕が学校に残っていた先生に連絡して買い出しを頼んでしまったからだ。美鳥君を部屋に運ぶのを手伝ってもらって、その格好のまま夜の見回りを終えて。何も言わず、何も聞かず、木崎先生はずっとここで待っていてくれた。 「……大丈夫か?」 「うん。でも、熱出るかもしれないから、一応今日はここで様子みとく。」 僕の言葉に、先生は何も言わず歩み寄りぽんっ、と僕の頭に手を乗せる。 「……大丈夫か?」 いつもなら俺を巻き込むなって怒るくせに。ここで、優しい言葉はちょっとずるい。 僕に向けられたその言葉に、 耐えていたはずの涙腺がまた緩みそうになって、僕はぎゅっと拳を握りしめ、奥歯を噛み締めて頷いた。 「……あの二人、今回が初めてじゃないみたい。」 先生の瞳が一瞬大きく開かれる。 美鳥君の身体を清めて着替えさせていた時、消えかけの痕がいくつか刻まれていたのを見た。 本人に聞くことはしなかったけど、美鳥君がそんなことを許す人間なんて一人しかいない。 「少なくとも一度は同意の上で抱き合ってる。……だからさ、これはただの痴話喧嘩なんだよ。」 大丈夫。大丈夫。美鳥君に何度も告げた言葉を、心の中で繰り返す。 「ただ、すれ違っちゃっただけなんだ。だから……」 僕の頭に乗せられたままになっていた大きな手が、僕の髪を優しくかき乱す。 「……俺は何も見てねぇし、知らなかった。それでいいんだな?」 低くぽつりと呟かれた言葉に、僕は無言で頷いた。 僕の頭のすぐ上で、重いため息が聞こえる。 また、背負わせちゃった。 バレたら先生だってただでは済まないのに、先生の優しさに僕はいつも甘えてしまう。 「……ごめんなさい。」 何度目かの謝罪の言葉を呟けば、僕の頭を撫でていた手が後頭部に回され、ぐっ、と力を込められる。 気がつけば、僕は先生の胸に倒れ込み、抱きしめられていた。 「せ、んせ…?」 固まる僕を、腰に回された手がさらに強く抱き寄せる。 「……俺は何も見てねぇし、何も知らねぇんだろ。だから、」 今だけ全部吐き出しとけ。 耳元でそう言われ、優しく頭を撫ぜられれば、張り詰めていたものがふつりと切れた。 「っ、」 辛いのは僕じゃない。僕が泣いたってどうにもならない。 けど、今だけ。この温かな腕の中でだけ。 今にもパリンと音を立てて壊れてしまいそうな心臓の内側で、痛みを伴いながら蠢いている言葉にできない複雑な感情。 優しく頭を撫ぜるその手の温もりを感じながら、僕は先生の胸の中で声を殺して泣いた。

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