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第8話

「なぁ……ここから出る方法、わかったか?」  小指の痛みと腫れがだいぶ治って話す元気が出てきた頃、俺は誠二に問う。  ここ最近は、とにかく拷問が怖くて暗黙の了解で協力するようになってきたからか、あまり失敗はなく、事前に用意した食料が底をついてもどうにか食えている状態だった。  それどころか、飯はだんだん高価になっていくし、着るものも、暖かい毛布さえ与えられて、これからの寒さに怯えることもなくなった。  性行為に至ってはローションや玩具などのグッズも様々で……。正直、俺も誠二もいろいろな意味で愉しみつつある状況にある。  それでも外の様子は全くわからない。警察や村の人々が探しているのかもしれないが、少なくともまだここは見つかっていない。  もしかすると、ゲームをクリアし続け、つらい現実から目を背けてこの箱庭で楽しく暮らすことを誰かに見せつけることを目的としているのかもしれない。  あるいはゲームに失敗し続け、死ぬまでのスナッフムービー。またあるいは──。 「もし……俺達の片方が死んだら、どうなるのかな」 「ぶ、物騒なこと言ってんじゃねーよ。た、確かに『デスゲーム』ってくらいだから、まあ、そういう輩もいる……いや、いたかもしれない……けど……」  最初こそ復讐するとか宣言してしまった訳だから、誠二からすればもし俺から殺意を感じればそれはそれは恐ろしいことだろう。  脱出方法は未だ不明。それから、食料などの各配給がどこから来ているのかすらも。いったいどうすれば。  ただ……それがわかるまではとにかく生き延びることが重要だ。 「……重い話になるのも何だから……よ。ちょっと先の話しないか」  誠二が言った。 「俺……将来、看護師になりたいんだ」  今の誠二の夢としては、驚きだった。だが、俺が指を切断した時の言動は、確かに多少の知識がある人間なのかもしれない。並の人ではパニックでどうしようもないはずだ。  もしあの時立場が反対だったら、いくら説明されたとて適切な処置を行えた自信がない。 「お袋の病気がもっと早くにわかって大きい病院で治療できてたらって思ったら……。それで……。卒業したら村出て、短大行く予定。遥希は?」 「俺?」 「東京の大学行って、卒業して……何すんの。外資系のサラリーマン……なくはないな。つーか、自分で会社起こしてビッグになってさ、女優やモデルと結婚したりして」 「学校だって辞めるかもしれないし、入った企業がブラックだったら? 起業した会社が軌道に乗るのなんて一握りだし、借金だけが残ったらどうする? 看護師だってそうだろ。現実の厳しさに辞める奴の方が多い。自分の方が過労で身体壊すかも。なのになんでそんなの目指そうとすんだよ」 「そんなのとか……言うなよ……」  俺は現実的なことを言っているだけ、誠二は思春期なりの輝かしい夢を見ているだけ。  本当に未来がどうなるかなんて神のみぞ知ることなのに。どうにも二人の意見は一致しない。  夢か……そういえば、考えたこともなかった。  さすがに無職はまずいとは思ったけど、それだけ。やりたいことも興味があることも特にない。  本当につまらない学生生活だ。一生つまらないと思いながら生きるのかもしれない。  それに……誠二は東京に憧れがあるようだけど、そう上手くいけば良かった。  向こうは向こうで、田舎者と言われていた現実を、方言や習慣で苦労したことを誠二は知るよしもない。  正直……自分のことを一番に理解してくれると思った誠二に、藁にもすがる思いで帰ってきたらコレだし、希望なんてどうやって持てばいいんだ。 「……とにかくここを出ないと将来もクソもないよな」 「……それは同感だ」  珍しく意見が合った。  けれど誠二はしゅんとして、俯いてしまう。 「やっぱ……駄目だな。こんな時に嘘は……。俺、遥希に結婚なんてしてほしくない」 「……え?」 「俺……本当は、お前に抱かれた時……こんな状況でも、少し嬉しかった。けど、そんな反応を見せたりしたら、お前はもっと俺にムカつくだろうと思って……お前の復讐は果たされないだろうと思って……だから、自分の気持ち押し殺して、嫌な振りしてた」 「なんだよ、それ……」 「……その。好きな子を……からかうってさ……マジで、ガキかっつー話だよな。でも、それはお前には理不尽ないじめにしか映ってなくて……だから今、監禁されちまって……。バカみてぇだよな、俺……」 「それじゃあなんだ? お前は俺が……好きだから、ずっとあんなことしてたってのか? 俺に殴られても掘られても、俺が好きだから、我慢してたってのかよ」  誠二はほんのり顔を赤くし、目を逸らした。  なんだその言い分は。なんだその乙女みたいな反応は。勝手にもほどがある。  拳をつくり、怒りに震える。ほんの少し薄れかけていた誠二への復讐心が再び燃え上がってくる。 「ふ……ざけんな……ふざけんなよてめぇっ!! そんなこと言われた時点で、俺の復讐は全部パァじゃないか!! 俺はお前が、苦痛にのたうち回って、許してくれやめてくれって懇願して、今までの行いの全てを謝罪させる為にここまでしたんだぞ!? それを本当は俺が好きだ!? この期に及んでまで俺を騙そうとするなんて……そんなの信じられっかよこのゲス野郎が!!」 「違う!! なぁ聞いてくれ、嘘じゃない、本当に俺は、お前のことが……!」  揉めそうになったところで、あの声が聞こえた。

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