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第9話 ※フィスト、潮吹き
『拷問の時間です』
「はっ……このタイミングで、来たか」
ニヤリとする俺に、誠二も何か恐怖を感じ取ったか。
「で? 今回は何をすればいいんだ? え? どこかで聞いてるんだろ、早く言えよ」
『遥希様が、誠二様にフィストファックを行います。誠二様が絶頂すれば合格。失敗すれば、二人とも不合格となり、罰が下されます』
「へえ。フィストか。ずいぶん過激だな、なあ誠二、知ってる? やったことある? てめえのケツに俺の拳ブチ込めばいいんだとよ」
「なっ……い、いくらなんでも、そんなこと、したことねぇよ!」
「でも、しないと俺ら……いや、俺も罰ゲームを受けることになる。お前は、自分のせいで好きな男が苦しむのを見たいのか?」
「それは……でも……」
「今さらうぶな振りしてんじゃねぇよ! 俺はてめえの身体がどうなろうが……ああそうだな、そうだぜ、最近の拷問はヌルかったからな、ちょうどいい機会かもしれない」
証拠はないけど、きっと俺達を監視している奴らもその光景を見たいんだろ? そう言いたいのを抑えた。
さすがにハードなプレイなせいか、道具は用意してあった。医療用のスキンクローブとローション。
誠二はいくら声の命令とはいえ、俺の言うこととはいえ、やはりやったことのない行為、しかも相手は素人ときたものだから、声が震えていた。
「う、うぅっ……本当に、やるのか……?」
「やらなきゃどんな罰が待ってるかわからない」
「それは、そうだけど……俺もお前も、フィストなんて、したことねぇだろ……? それに、成功するには俺が……イカないといけないんだ。だから、その、お前の協力も大事で……」
「そんなの知るかよ。俺が好きならどんなことでもイケよ」
「そんな無茶苦茶な……うっ!」
ローションをすくった指でアナルの皺を撫で、徐々に入れていく。
ペニスが入ったんだからニ、三本くらいは余裕だろう。そう思って捩じ込もうとしたけれど、肛門括約筋とやらはなかなかにタフらしい。
そうは言っても女相手だってソッチの趣味はないから詳しくは知らない。男の尻穴なんか手袋越しでも触りたくもない。
本当は慎重に、丁寧に慣らしていくものだろうけど、嫌々やっている以上は動きがどうしても雑になってしまう。誠二もあんまり気持ち良さそうじゃない。
なんやかんや時間をかけて、四本入ったところで、「おおー」なんて感心していたら、誠二は必死に首を横に振って叫んだ。
「ぁ、がッ……無理、もう無理! それ以上は、入らなっ……裂けちまうから、やめ……やめてくれぇっ!!」
『ギブアップしますか?』
声が問いかけてきた。
もしそんなことになったらまた……いや、二人とも何らかの拷問を受ける。誠二のせいで連帯責任なんてそれだけは御免だ。
「おい。コイツがどれだけやめろって言っても一切聞くな。ギブアップはなしだ。必ず成功させる」
「そ、んな……遥希……お前、俺のこと、そこまで……」
「ああ、憎いよ。お前が俺をこうさせたんだ。責任持って謝罪しろ!!」
「あぎぎぎぎぎィイイイイッ!!」
誠二の悲痛な叫び声と共に、ズボッと拳が入り込む。
もちろんフィストなんてやったことはなかったし、誠二もここまでハードなプレイはしたことはないだろう。でも現に入ってしまったのだから、それだけ普段からここを慣らしていたという訳だろうか。
「うわ……は、はははっ……誠二の直腸の中、熱っ……マジで俺の拳入ってる……すっげぇ、なんだこれ……ははははは!」
驚きと嗜虐が混じったような感情に笑いが止まらない。そんな遥希とは真逆に、誠二はたまらず泣き出した。
そうか。さすがの誠二も泣くのか。
喧嘩が強くて、その屈強な肉体に釣り合う生意気な性格の誠二も──恐怖と苦痛は味わいたくない、一人の人間なんだ。そこは、あの頃と、変わってない。
「う、そ……ぜんぶ、入っ……いッ、ぎぁあああアアアッ!!」
頭でぼんやり思いつつ、容赦なく腸腔を掘り抜いていく。
これ、裂けないのかな。後でどうにかならないのかな。単純に疑問は浮かぶ。まあ、世の中にはこれ以上のハードプレイを好むマニアでもいるくらいだから、死にはしないか。
握り拳を動かしていると、これは……どこだろう? いわゆる前立腺? 膀胱? それとも精嚢かな……自身の未熟なチンポじゃわからなかった、内側のコリコリした部分の感触がわかった。
そこを擦りまくってやると、誠二がビクンビクンと大袈裟に身体を跳ねさせる。
「っひゅ、は……がはァッ……! はる、き……そこやめ……駄目、なんらぁっ……やめへくれええぇっ……!」
やめてと言われてやめる奴がどこにいる。反応を見つつ、誠二が弱そうな部分をこちらも一心不乱に責め続けた。
かの誠二が涙と鼻水とよだれと汗とを流し、声にならないくらいアヘアヘしている。こんなことすら気持ちいいんだろう。なんというか幻滅だ。
「あへえっへへぇえええっ!! 腹ん中掻き回されておかじぐな゛る゛ッ! 見ない、れっ……見ちゃ、だめだぁっ……! あ゛ぁぁぁ~~ッ!!」
大声を上げた誠二の萎えたペニスから、断続的に透明な液体が噴き出した。
「うお」
すごい絶頂ぶりにびっくりしたが、小便の色ではなかった。これが俗に言う男の潮吹き……?
AVを見るに女だって体質があると言うし、ましてや男は外の刺激でない方は、普段から訓練していないと違和感しかないんじゃないか。それが、誠二は本当に、尻穴を拡げられて、腹の中を弄られて、なんて……。
ゆっくり引き抜いた拳には、ヌラヌラと照り光るローションに腸液、そして少量だが血が混じっていた。
誠二は死んではいないが、それだけの快感だったのか、負荷がかかっていたのか、しばらくピクリとも動かなかった。
『遥希様、誠二様、合格』
ただ、あの機械的なアナウンスだけが部屋に鳴り響いていた。
二人とも合格だったので、温かい食事が与えられた。
今夜はフランス料理のフルコース。確か、前菜にスープ、魚料理、口直し、肉料理、デザート、コーヒーに小菓子……だったか。
ただ、どれも学生が食べられるようなものじゃない。親戚の結婚式くらいでしか見たことがないし、たぶんそれより高価な食材が使われていることは庶民の舌でもわかる。どこかにシェフが隠れているのではないかとさえ思う。
黙って食べていたが、誠二はと言うと、あまり喉を通らないようだった。あんなことをされた後なんだから、心身共にすり減って……それも仕方ないかもしれない。
そう思ったのも束の間、誠二はか細い声ながらも話しかけてきた。
「……なぁ。俺が、もし、今後もこの訳のわからない拷問に耐えたら……俺がお前のことを好きだってこと、認めて、くれるか……?」
まだそんなことを……怒りでせっかくの食事をひっくり返すのももったいないので、無視を決め込もうとする。
「もうこうなっちまった以上、いや……最初からお前とどうこうなろうだなんておこがましいこと思っちゃいないけど……ただ……この気持ちだけは嘘じゃないって、受け止めてくれるだけでいいんだ……」
ちらりと誠二を見る。誠二は、必死に自分の想いを伝えようとしているかのような表情で……でも、どこか諦めの境地に達したようでもあって。
……どうしてそんな顔をするんだ。あんなに酷いことをしたんだから、最初みたいに罵声を浴びせろよ。
「…………わかったよ。認めるだけだからな」
「……ありがと」
「なんで礼なんか言うんだよ、くそ」
やり場のない気持ちに、軽く壁を殴った。
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