2 / 60

第2話

19歳を迎えた春のある日。 昼まで寝ていて起きた碧唯は、小腹が空いたので母親に買わせたお菓子を取りに部屋を出てリビングに向かう。 そこには母親の他に知らない男性がいた。 「…………!!」 母親にカメラを向けているところから、仕事で来たカメラマンだと分かった。 金縁の眼鏡をかけた、色白で背の高い細身の男性。 茶髪をお団子にしているその人は、自分よりは年上だと思われるが若く見えた。 「えっ!?何ですか、このものすごく可愛い子!!」 男性は母親そっちのけで碧唯の方にやってくる。 「あ、碧唯!!」 知られてはいけない存在。 母親は真っ青な顔をして碧唯を見ていた。 「あおいくんって言うんですね。めちゃめちゃ僕のどストライクなんですけど」 その目に心を痛めている碧唯をよそに、男性は碧唯の身体をあちこち触り、遂には抱きついてくる。 「え……ちょっと……」 「うんうん、この抱き心地、気持ち良くて堪らない……」 母親か家政婦としか話をした事がなかったのに、男性のいきなりの行動で碧唯は困惑し、声を発してしまう。 「声も少し高めで可愛いですね、完全に僕の好みです」 男性は碧唯から離れると、手の甲にキスをしてくる。 「城音寺さん、この子、連れて行っていいですか?僕の家で飼わせて下さい」 「そ……それは……」 母親が躊躇うと、男性は噂で聞いたという碧唯の出生の秘密を話しだした。 「あおいくん、その息子さんって事ですよね?僕にあおいくんを差し出して下さったらこの事は決して口外しませんよ?」 笑顔で話す男性。 けれどその目は決して笑ってはおらず、母親を脅していた。 「わ……分かったわ……碧唯……ごめんなさいね……」 「…………!!」 母はまた、自分より女優である事を選んだ。 (やっぱりボクは要らない子なんだ……) ヤケになって自殺する勇気もなく、碧唯は母の撮影を終えた男性にぼさぼさだった長い黒髪をとかされてポニーテールにされると、着ていたスウェットのまま白いミニバンに乗せられていた。

ともだちにシェアしよう!