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第6話
車は、郊外のスタイリッシュな灰色のビルの前で止まり、その1階が駐車場になっていた。
車を停めると、威は碧唯の手を取って室内にあるエレベーターに乗り込む。
「ここは僕の自宅兼事務所です。僕は友人であり仕事仲間でもある人たちとルームシェアをして暮らしているんですよ」
「はぁ……」
その人たちの前でもこの格好で会うのかと思うと、碧唯は恥ずかしかった。
「ただいまー」
4階でエレベーターが止まり、威に手を引かれて歩く。
玄関らしいところでサンダルを脱いで中に入ると、そこには口元のホクロが色っぽい、ベージュのマキシ丈ワンピースを着た、グリーンブルーでミディアムボブの美しい女性がソファに寝転んでスマホを弄っていた。
「ゲッ……ホントに連れて帰ってきた……」
「ええ♬︎たまたま僕の仕事中に来てくれたんですよ!!まさに運命でした♡」
起き上がって碧唯を見るなりその美しい顔を歪める女性……と思ったが、声の低さからどうやら男性の様だった。
そんな男性に、威は満面の笑みで答える。
「『運命でした♡』じゃないから!何、この白い豚!!確かに城音寺メイに似てるけど、完全に豚でしょ」
「豚じゃないですよ、僕の可愛い子豚ちゃんです」
男性のダメ出しを平然と聞き流している威は碧唯の肩を抱き、頭を撫でる。
「ホント、アンタの趣味だけは理解出来ない。っていうかお腹空いたからご飯作って!!」
「はいはい、かしこまりました、カズキ様。子豚ちゃん、ここに座って待ってて下さいね」
「はぁ……」
対面式になっているキッチン。
威に案内され、碧唯はダイニングチェアに座っていた。
「豚、名前は?」
真向かいに先程の男性が不機嫌そうに座る。
どこからどう見ても女性にしか見えない、可愛らしい顔立ち。
仕事仲間と言っていたが、母のように女優をしていてもおかしくないと思える美しさだった。
「み、峰崎碧唯です……」
「ふーん、城音寺メイ、本名は峰崎なんだ。ワタシは水無川一機(みなのがわかずき)。アンタのご主人様のタケルとは専門学校時代からの腐れ縁なの。ワタシの仕事はメイクや衣装に関わる事全般だから、アンタみたいな汚らしい格好をした人間を見てるとイライラするのよね〜」
「ご……ごめんなさい……」
一機に容赦なく言われ、碧唯は泣きそうになる。
「ちょっとついて来なさい」
そう言って、一機は碧唯を引っ張り、室内にある階段で下の階に降りた。
様々な服がズラリと並んだ部屋に連れて行かれると、一機が碧唯を見ながら服を選んでいく。
「ハイ、それ捨てるからこれに着替えて」
「は、はぁ……」
差し出されたのは淡いオレンジ色のパーカーとウエストがゴムになっている黒色のクロップドパンツだった。
(こんな明るい色……ボクなんかが着て変じゃないかな……)
鋭い目つきの一機に見られながら、おそるおそる着替える碧唯。
パーカーは大きめで余裕があったものの、パンツはパーカーであまり見えなくなっていたが、ピッタリ過ぎて少しだけ身体にくい込んでいた。
(どうしよう……下の方、少しキツイ……)
そう思ったが、怖い一機に対して言える訳がなかった。
「うん、これでいい。タケルが悦ぶ姿が目に浮かぶわ」
一機は碧唯を見ると、満足そうに頷いた。
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