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第43話
「んーっ、疲れたぁ。豚、大丈夫?」
「は、はい。だいぶ楽になりました」
飛行機の中に10数時間。
初めてのフライトは碧唯には大変なものだった。
途中、威とトイレでお仕事をした事もあったがそれがいけなかったのか、碧唯は空港に到着した直後、突然の吐き気に襲われてトイレで思い切り吐いてしまったのだ。
「僕も初めての長距離移動の時は吐きましたよ。子豚ちゃん、飛行機の中でお仕事も頑張って偉かったです」
「ちょっと、タケル。やっぱアンタたちさっきトイレの中で……」
「カズキ、タケルが何もしないで黙って乗ってるワケねーだろ」
「ふふっ、その言葉、そっくりお返ししますよ、トウヤ」
4人はイギリス屈指の人気ビーチリゾート、ボーンマスに来ていた。
「あぁ、やっぱイイわね、海外に来たって感じで」
3人が所有しているというコテージは海のすぐそばにあり、ウッドデッキからはその美しい海岸を一望出来るだけでなくそのまま海まで行けるようになっていた。
「こっちはね、地震がほとんどないからって聞いて買ったのよ。普段は人に貸してるんだけど、まさか撮影で使うなんて思ってもみなかったわ」
「そうなんですか……」
荷物を置いて一休みすると、近くのレストランで食事をする。
個室のお店で料理を食べ、3人はお酒を飲み、碧唯はオレンジジュースを飲んでいた。
「明日は晴れみたいだから、早速水着の写真撮っちゃいましょ」
「子ブタくん、頑張れよ!」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
その後、お酒の進んだ3人は話に花を咲かせていた。
「あれから10年、あっという間ねぇ。あの頃は30とかババアだって思ってたけど」
「カズキ、んな事言ったら大半の女性に恨まれるぞ?」
「ワタシなんかとっくに恨まれてるわよ。男のくせに何でそんなに美人なのかって。ワタシに勝てるオンナなんかいないだろうからそういうオンナをひとりでも多く生み出す為に今の仕事をする事に決めたのに、この美しさだから結局恨まれてるのよね」
「カズキの美しさは学生時代から有名でしたよね。幾つもの事務所がスカウトに来ていた事、覚えています」
「それはアンタもでしょ?タケル」
「……そうでしたっけ?」
知らない過去の話。
碧唯は気になって、ついつい聞き入ってしまっていた。
「カズキほどじゃねーけど、タケルもモテてたよな」
「……まぁ、確かに女の子によく声をかけられてはいましたが、僕は全く興味がありませんでしたので」
「嫌いなんだもんな、女の子が」
「……女性は……僕にとって最悪の存在でしかありません……」
そう話して、威は飲んでいたお酒を一気に飲み干し、お代わりを注文する。
(ご主人様……)
威が一瞬見せた苦悶の表情。
(僕と同じ……それならご主人様のお母さんも僕のお母さんみたいな人だったのかな……)
碧唯は一機の言葉を思い出していた。
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