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第45話
(ボク……なんてバカな事しちゃったんだろう……)
後悔した時には既に遅かった。
恐らくコテージの方であろうという方角に向かったつもりだったが、そこにその形は見えなかった。
(このまま帰れなかったら……皆さんにもっと迷惑かけちゃう……)
とりあえずレストランまで戻ろう。
そう思って振り返ったが、レストランは街中にあったので何処だったのか分からなくなっていた。
(どうしよう……)
途方に暮れた碧唯は、ライトアップされた砂浜に座り、ひとりで海を見ていた。
「子豚ちゃん!!」
そこに、荒い呼吸をした威が現れる。
「ご主人様……!!」
泣きながら抱きつく碧唯。
「ごめんなさい、勝手な事をして、皆さんに迷惑かけて……」
「……謝るのは僕の方ですよ、子豚ちゃん。僕が意気地無しのせいで君を傷つけてしまいましたね」
頭を撫でてくれる、温かく優しい手。
「ち、違うと思います。ボクがただ、ご主人様の事を……どんな事でも知りたくなっただけで……」
「子豚ちゃん……」
「ペットなのにこんな事思っちゃダメですよね、ごめんなさい……」
「…………」
碧唯がそう言うと、威は碧唯をきつく抱き締めてくる。
「嬉しいです。僕が無理矢理連れて来たのに僕の事を知りたいと思ってくれているなんて……」
「ご主人様……」
それから、威は碧唯に自分の生い立ちを話し始めた。
「僕はね、国会議員の父と、その秘書だった祖父が出世の為に差し出した娘…母との間に生まれたんです。母は望まない妊娠と出産で精神に異常をきたし、僕を産んですぐに自殺したそうです。僕は父の下で何不自由なく育ちましたが、父は仕事が忙しくほとんど家にいませんでした。父のいない間、父の再婚相手は父との間に子供が出来なかったストレスの捌け口として僕に暴力を振るいました。それで僕は女の人が嫌いになり、信じられなくなりました」
「…………」
海を見ながら肩を並べて話す威。
碧唯はその事実に言葉が出なかった。
「僕はあの女……継母から逃げたくて父に留学したいと言い、父は僕の為ならお金を惜しまない人だったので継母から逃げる事に成功しました。そしてここ、イギリスで出会った恋人の影響でカメラの世界に興味を持ったんです……」
そこまで話すと、威は碧唯に笑顔を見せた。
「君の存在を噂で知った時、僕と同じだと感じてしまいました。当たり前にあるはずの家族、そしてその無償の愛を知らない存在だと。だから僕は君に教えたかったんです。カズキとトウヤが僕に教えてくれた様に、外の世界には血の繋がりがなくても愛を教えてくれる人達がいる事を。君を外へ連れ出したら、後は好きなように生きられるように支援していこうと思っていました。けれど、君は……僕の好みのタイプそのものでした。だから僕の傍から離したくないと思ってしまったんですよ、子豚ちゃん」
碧唯の頬を撫でると、威は碧唯にキスをする。
威の想いに、碧唯は胸がじーんとして涙が出てしまった。
「……ずっと外に出ていなかったボクが、いきなり外の世界で好きに生きる事なんて出来ないです。今だって迷子になって、あなたが来てくれるのを待っていたんですから」
泣きながら話す碧唯。
「最初は何が何だか分からなかったけど、ボクはもう、あなたがいなかったら生きていけません。ボクの全部、あなたに捧げますから、だからボクにもあなたの全部、ボクに教えて下さい。お願いします……」
深々と頭を下げる碧唯を、威はもう一度きつく抱き締めてくる。
「君の口からそんな言葉が聞けるなんて思いもしませんでした」
「迷惑……ですか?」
「いいえ、今までそんな風に言われた事がないので、不思議な気持ちです」
「……ボク、変ですか?」
「変ではありませんよ。それだけ僕の事を深く想ってくれているという事だと僕は感じました」
威は笑顔を浮かべながら碧唯の涙を拭き、額を合わせてくる。
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