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第3話 社交辞令と思ってた
「また来たよ」
もうそろそろ店をしまうそんな時間に滑り込みで智が来た。前と同じようにしゃれた感じだけど、今日は彼女はいない。
まさか次があるとは思わなかったので返事が出来なくて固まる。
「びっくりしすぎじゃん」
「社交辞令と思ってたから」
「なんでよ」
にかりと笑って智は俺の肩を無駄にたたいた。そんなささいな接触にもこころが浮足立ちそうで智と距離をとった。ノンケが僕を好きになることはないと心の中で念仏のように唱える。
「これ買ってくわ。前来た時、彼女が見てたみたいで、買っとけばよかったって言ってて」
店に用があったのか。来た理由は自分じゃないなんてわかっていたのに悲しい。
「じゃあ、買えばよかったのにさ、なんか俺が店員ににこにこしてるの見てむかついたって。陽太の事、女だと思ってたんだと。それでわびに買って帰ろうとおもって」
「仲いいんだね」
二つ結びの髪が揺れていた彼女のことを思いだす。自分の髪を伸ばしたいと思ったことはあまりないけど、長い髪というのは武器だと思う。
あんまりききたくない話だ。智は昔からモテてていた。小学校から中学校卒業まで同じ学校で同じクラスになることは結局なかったけど、誰とだれが付き合ったみたいな話はすぐに回る。智はそんな噂の最初の方に名前が挙がっていた。
「いや、そうでもないよ」
「でも買って帰るんでしょ」
「うーん、新たに彼女作るのめんどくさいとか、そういう感じ」
「ファッションみたいなものってこと?」
「いや、それはさすがに違うけど。いつでもすぐに会いに行ける人がいないとさみしいんだよね」
ふと影がある感じの表情が見えた。その顔を見たことがある気がする。いつだっただろう。
「さみしい?」
「なんか、前にも言った気がするね。あんまり人にはこういうの言わないんだけど、自分が子供に戻ったみたい」
いつだったか思い出した。あれはうちで智がご飯を食べたときだった。彼の両親はともに忙しくて、毎日のように習い事に通わされていた。書道教室に行く日は行く前に俺の家に来て、終わってからも彼の親が帰ってくるまでゆっくり帰ったり、俺の家によったりしていて、ご飯をうちで食べていく時もあった。
「みんなでご飯を食べるとうれしいね」
幼い彼はご飯に誘うととても喜んでくれた。
「陽太はいいな、俺、ひとりばっかりだから」
智はいつもの快活な少年の気配を消してつぶやいた。
「なぁ、今度、一緒にご飯行こうよ。俺、すげぇ、さみしがり屋だから、気心知れた友達が増えるのってうれしい」
幼かったころの智がかききえて、今の智が目の前にいる。面影はあるけど見た目は変わり、でも彼は確かに同じうれしいと昔も今も俺に言う。だけど。
「友達……?」
「友達だろ?」
なんの疑問もなく智はそういった。
友達、その言葉がいろんな昔のことと、自分の今の思いを交錯させる。
「うん」
彼がポーチを買ったので、僕は彼女にわたるポーチを袋に詰めた。
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