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第5話 これからも傷つく
智はもう帰ってしまって、店じまいを一人でしていた。もうそろそろこの辺りはシャッター街になる。日を超えてまでやってるような飲食店は通りが別で、智はそっちでいまごろ彼女と待ち合わせでもしてるのだろうか。
この前はうらやましかった彼女が今は昔の自分と重なった。智はすごい寂しがり屋で、彼女も智のさみしいをかき消すためだけの、存在なのかもしれない。かつての智のさみしいをうめるだけの便利な存在だった僕のように。
閉店間際の時間にまた智が店にふらりと現れた。
「もう閉める? あとでちょっとだけいい?」
「いいけど」
夜も遅いし、もうご飯を食べて寝るだけだ。ちょっとだけと言われたら断る理由もない。
「お疲れ様」
智は外で待っていてガレージを閉める俺を見つけると嬉しそうに寄ってきた。
「この前来たら、陽太休みって言われて、連絡先交換しよう」
「そのために待ってたの?」
「そう」
何とも言えない嬉しさが身に染みる。でも、勘違いしたらダメだ。
「いいけど、暇だね。ポーチあげたのに彼女と仲直りしてないの?」
「一応したけど、最近冷たいの」
彼女とうまくいってない事実は、自分の性格の悪さを感じるけど嬉しい。そういう自分だから智にうまく使われてしまっているのだけど。
連絡先の交換も断れず頻繁に店に来る智も追い返せない。
ノンケはだめ、特に智は。
自分の心に再び誓った。もう彼のさみしさに振り回されたくない。自分に振り向いてくれないのに一緒にいるのは僕が寂しい。
「携帯出して」
携帯をだそうとしない僕に智は催促する。まるで連絡先の交換を拒否されるなんて思っていない。ここで携帯を出すと、こっからずるずるきっと智に巻き込まれてしまう。それでもさすがに今時携帯持ってないなんてことはなく、断るうまい理由もない。しかたなく携帯を出した。
好きにならない。智は絶対、僕を好きになってくれないんだから。
「ありがと、もしよかったらこの後ご飯いかない?」
にかっと笑う智にそれでも僕は嬉しくなってしまい、いつの間にか口から行こうとこぼれてします。
外は少し寒くなってきて、一緒に寒いなんて話しながら近くのファミレスまで歩いた。
「この前のポーチ、ポーチ自体は彼女喜んでたよ」
「そうなんだ」
「何回も店に行ってたらあのキャラクターさ、俺もかわいいなと思って、今度はなんか自分用に買おうかな。おすすめある?」
「智君に似合うやつあるかな? キーホルダーとかならかわいいかも」
ラバーのキーホルダーが商品ラインナップにある。黒ならこういうしゅっとした男の人でもおかしくないしギャップがあってかわいいかもしれない。
近くのファミレスはサラダバーかドリンクバーで粘る若者で混んでいた。もう結構遅い時間だ。
僕は夕ご飯がまだなのでしっかり夕飯を食べて、智はもう夕飯は食べたのかコーヒーを飲んでいる。コーヒーとか飲むんだなというのに流れた時間を感じ、僕が食べている間、最近の出来事を楽しそうに話すのには昔を思い出した。智は教室でもすぐにおしゃべりをしだして先生によく怒られていた。
「じゃあ、まだ実家なんだ」
「そう。両親ほとんどいないから一人暮らしみたいなもんだけど」
家のことがあまり好きでない風だったので意外だったけど、智の通う学校は通える範囲ではあった。
「ちょっと遠いね」
やたら店に来るから近くに住んでるのかと思っていたけど、ここら辺は通学途中だなと合点がいった。友達と時間が合わないときに店に寄っているのかと思うと、それも昔とかわらない。さみしいからその間をうめるだけに使われている。わかっていることなのに何度でも傷ついた。やっぱり連絡先を交換したのはよくなかった。きっとこのまま交流をつづければこれからも傷つく。
「そうそう、陽太は家どこなの?」
「こっから、電車でちょっと行ったところ」
僕は社会人になって家を出たので一人暮らしだ。
「今度は家、行かしてよ」
聞きなれた声より、ずっと甘えたような声。そんなのどこで覚えてきたんだろう。そんな声しらない。眠たいから? それ僕に使うのあってる?
動きそうな恋心を必死にとどめる。
「また、今度ね」
これ以上は踏み込まないでほしい。
「絶対だから」
そんな僕にきづいてるのか、智は幼い顔で子供のような念を押した。
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