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第6話 確信犯

 今度と言っていたのに、ファミレスでだらだらと話してるうちに終電が過ぎてしまった。やっちまったと話す智はご機嫌で、確信犯だったように思う。  僕も僕で、なんとなく智の話を聞いてる時間が楽しくて、時間のことを忘れてしまった。 「結構歩くよ」 「大学生の有り余った体力なめんな」  タクシーでも拾いたいけど、自分の給料ではもったいなくて、そのままファミレスで過ごそうと話したけど、僕の最寄りの駅をググった智は歩けるんじゃないかと提案してきた。  実際、僕は何回か歩いて帰ったことがあるのでその事実は知っていたのだけど。 「30分だよ」  そうなんどか念を押したけど智はひかなくて結局歩くことになった。  こういうところが強引なのだ。  昔からそうだ。自分の言うことをまわりはみんなきいてくれると思っている。  最初に僕の家に来た時もそうだった。いつも外で遊んでる智と、教室の隅にいる僕ではキャラが違う。智がうちに来ても面白いわけないし、どうせ書道教室の中であいさつするだけの関係になると思っていたのに、智は書道教室を終わった後、家に強引に押しかけて来て、行く前にも訪ねてくるようになって、それが定着するようになった。  このままじゃ、また押しかけられてそのままなしくずしになる。  ただの友達になしくづしも何もないのだけど、ただの友達とは僕は思えないから。そもそもただの友達にもなれないに違いないけど。  歩きながら取り留めもないことを話しながら、このまま家に智をつれていっていいのかずっとぐるぐると考えていた。こんな夜のど真ん中に智を放り出して帰るなんて自分にはできないのに。 「たのしいな」  智は本当に楽しそうにつぶやいた。  都会の空は星が見えなくて、真っ暗なのにそばにいる智は輝いている。 「昔さ、陽太の家から帰るとき真っ暗になってて、俺、めちゃくちゃさみしかったんだよ。でも今は暗くなっても一緒にいれる。なんか、今、すっげぇ、嬉しい」  智はめいっぱい笑って俺に言う。そんな風に笑わないでほしい。勘違いする。ただの紛らわしの存在でも、僕である意味があったんじゃないかって、僕といれて楽しかったんじゃないかって、この嬉しいがあの過去と地続きであるんじゃないかって。  僕だって嬉しい。智があの限られた時間意外で僕と一緒にいてくれてる。たとえ彼女と冷戦中の紛らわしでも嬉しくて、喜ぶ心が止まらなくて。  もう勘違いさせないでとすごくすごく思っているのに僕は智を連れ帰ろうとしていて、突き放すことが出来なくて、やっぱりどうしようもなく、また好きになってしまう。恋は自分では止められない。  ようやく帰った家で智は疲れたと声を上げた。  僕も主にぐるぐると悩みすぎて、身体というより脳が疲れていた。これぐらい疲れていた方が智を家に連れ込んでいるという事実も多少薄れていい。時間も遅いし、もう本当に寝るだけだ。  ぱちりと電気をつけたら僕の部屋にはひときわめだつものがあって、それに智は目を向ける。 「なにこれ、3Ⅾプリンターじゃん」  僕の部屋は半分ぐらいが工房というか制作する場所になっていて、その中でも目を惹くのが、3Ⅾプリンターだ。 3Dプリンターはパソコンでモデリングすると樹脂が層にかさなって立体がプリントアウトされる。 「よく知ってたね」 「俺、釣りするんだけどさ、たまたまみたホームページでルアーを自作してる人がいて、これ失敗?」  智は中をのぞき込んだり、散らばった失敗のプリントをさわったりしている。 「そう。でもそんなに難しくないよ。簡単なのならすぐできるし」  僕はテストで作ったピラミッドを智に渡すと智の目はわかりやすく輝いた。  つくってみたいんだろうなと思った。ここで智がきて楽しそうに、あの頃のように過ごす。楽しくて残酷な時間。  中学に入ってからは智は部活の関係で教室に行く前には来なくなった。中学生活で最も大事な部活の存在の前には当たり前で、それでも、教室の後、智がよってくれるのが嬉しくてつらかった。 「今度作ってみる?」  子供の頃は時間つぶし、今は3Dプリンター目当て、僕は付属品でしかない。  それでも、僕の口は僕の感傷を裏切って智に言う。  どうしてつらい思いをするってわかってるのにこんな風に言ってしまうんだろう。そして神様はきっかけを用意してくれてるんだろう。 「いいの?」  目を輝かせた智に僕はなずいた。 「やった。陽太は優しいな。そういうところ大好き」  そんなこと言われると心臓が止まってしまう。 「つごうのいいこと言って」  必死に言葉で自分の心を隠した。期待しちゃいけない。陽キャが陰キャのゲイにふりむくなんて絶対にないんだから。友達だとすら思われていない。僕は智にとって都合のいいやつなんだ。 「ほんとだよ、陽太は優しいっていつも思ってる」  智が笑顔で言う。いつも笑顔の奴なんだから、これが僕だけに向いているなんてことはない。  それでも何度でも期待する。なんてばかなんだろう。自分は、恋心というやつは。少しでも、なんでも、そばにいたいって思ってしまう。 「今日はもう寝よう」  智にはベッドを使ってもらって僕は床に布団をしいて寝たけど、なかなか寝付けなかった。

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