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第12話 特別

「いやだ」  智は思ったより強く声を荒げた。 「つごうのいい存在がいなくなるから?」 「ちがう」  智に腕を握られた。なんでゲイだと言ってるのにこんなに触ってくるんだろう。智がいつも僕にこうして接してくるから、僕は何度でも期待する。 「とにかく、もう、駄目なんだ。僕、ずっと、智のことが好きだったから」  顔を隠す。言うつもりがなかった、ずっと言いたかった、その両方でずっと天秤が揺れていた。もう智は来ないかもしれない、気持ち悪いって思われるかもしれない。でも、最後に言えてよかった。 「ずっと、好きだった。つごうの言い存在でもそばに居たかった。智といる時間はいつだってしあわせだったから」 なんとか言いきった。これで満足だ。そう自分にいいきかせていると、腕を引き寄せられた。びっくりして顔をあげると、智は僕をまっすぐにみていた。 「わかった」  智の顔が近寄ってくる。えっと、僕の声がもれてその次の言葉が出る前に、唇に触れるだけのキスをされた。  意味が分からない。混乱する僕を見て、智はもう一度キスしてきた。  あまりにも意味が分からないけど、そのままぎゅっと抱きしめられる。 「陽太は、つごうの言い存在じゃないよ。ずっと特別だった。聞いてくれる?」  智は僕の耳にささやく、特別に甘い声。顔を見ると、顔も今までの笑顔とは違う甘くて胸焼けしそうな笑顔だった。こんなの聞くしかない。 「あの時のこと俺も覚えてるよ。嫌だったんだ。友達に陽太のこと知られるの。陽太は俺だけのものだから、みんなに発見されたくなかった。優しい陽太にみんなをうけいれてほしくなかったし、あの空間に誰かをいれたくなかったんだ。陽太を独占したかった。一週間の中で陽太の家で過ごすあの時間が一番楽しかったんだよ」  そんなの信じられない。いつも元気な子をまわりにつれている智が、僕と過ごす時間を一番だなんて言ってくれるはずがない。 「うそ」 「ほんと」 智は僕を力強く抱きしめる。 「陽太こそ、学校で俺が見たときいつも顔をそらしてたじゃん」 「はずかしくて」 「書道教室やめて学校で挨拶した時も無視された。だから、俺、陽太は仕方なく俺と一緒にいてくれてたんだと思ってた。俺がさみしいってわがまま言うから、優しい陽太は、俺みたいながさつなやつ、あんまりすきじゃないのに、つきあってくれてたんだって」 「ごめん」  あの時、無視したのは我ながらひどかった。僕は自分に自信がなくて、学校で智の隣にいる自信がなかった。 「俺はあの時間、凄く大切な思い出だよ。陽太は違うの」  週に一回、いつもその日が待ち遠しかった。智が僕の家に来る日、僕の部屋で楽しそうな声で話す智、書道教室で僕を見る智。智が笑顔で僕に笑いかけるどうしようもなく幸せだった時間。 「いい思い出だった」  苦しい時もあったけど、好きで、ずっと好きなままだった。  涙があふれる。顔をそっと向けられた。また唇にキスされた。 「なんで」  なんでキスするの? 僕の疑問をよそに智は笑う。 「俺の事、ずっと意識してたの? 昔も今も俺は全然気づかなかったけど、俺も意識してたよ。それが彼女にばれたんだ。言われてたんだ、本命いるんでしょって。それで気づいたんだよ陽太が俺の本命だったんだなって」  智は僕の方をまっすぐ見ている。こんなことあるだろうか。 「そんなこと言うけど、女の子の方が好きなんでしょ」  ノンケはだめだ。特にこういうもてる男は。きっと捨てられる。 「陽太の方が好きだよ。ねぇ、ふらないで、俺がさみしがりなの知ってるでしょ」  次から次へと涙が出て来る。こんなこと実現するわけない。 「陽太」  だめだけど、恋は止められない。それにこの恋がだめでも僕は後悔しない。  好きだった。智のことがすきでたまらない。またつらいことが待っていても、僕は今、智と離れたくない。 「ふらない。智のそばに居られたらなんでもいいから」 「なんでもよくないよ。つきあうんだから」  智は笑って僕の流れ続ける涙をふいた。

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