4 / 275

嘘で出来た男3

 カーテンの影に誰かいるのだ。  参加者はそう言えば21人だった。  それほど細かいことは男は気にしていなかったのだ。  誰かがあのペアになるために、会場の人々が混雑した時に、ここに逃げ込んだのだ。  コイツだけがこの男の企みに気かついたのだ。  こんなことは今までなかった。  男は薄く笑った。  その姿は何時のまにか変わっていた。  背が伸びていた。  中肉中背だったはずの身体は、細身の180センチはあるすらりとした身体になっていた。  人好きのするハンサムな顔は消え、柔らかな茶色い優しい目は消え、綺麗に整った顔の男がそこにいた。  清らかで美しいといってもいい顔だが、切れ長の冷たい瞳は冷え切った闇だった。  男の指がカーテンに伸びる。  その指も、安心感のある節くれだった大きな指から、美しく整った労働を知らない、綺麗な指になっていた。  年齢も20代前半といったところか。  「・・・自分から出てきたら、何もしませんよ」  しゃべり方も親しげな調子がなくなったいたが、優しい声だけはかわらなかった  「・・・嘘だ。お前は最初から嘘しか言っていない!」  ソイツは言った。  震える声だった。  「お前は何一つ本当のことを言っていない!」  ソイツは叫んだ。  男は笑いを顔から消した。  感心した顔をした。  「普通の嘘つきは・・・嘘に真実を混ぜてくる。だけどお前は嘘しかつかつかない・・・お前は何者なんだ!!」  カーテンの奥でソイツが震えているのがわかった。  「・・・心外な。そんなひどいことを言われたら私だって傷つきますよ」  男は悲しそうに言った。  でもその目は楽しそうにキラキラしていた。  カーテンに近づく。  男はまるで花嫁のベールをかきあげる花婿のような優しさで、重なるカーテンをゆっくりとかき分けた。    「おやおや。これは・・・高校生?中学生?」  思わず男が言った。  「なわきゃないだろ!!オレは今年で30になる・・・わかって言っているだろ」  ソイツは怒鳴った。  ソイツは・・・小柄な男だった。  そして、確かに童顔だった。  怯えたように泣く顔は子供のように見えた。  大きな目と少年じみた外見が余計にその印象的を強くした。  どうみても、20をこしているのは確かと言った外見だったが、震えはしていても泣いてはいても、その目つきはただの「獲物」ではなかった。  「・・・君、素人じゃないですね」  男は言った。  これはただの質問。嘘でも真実でもない  「・・・記者?」  これも事実の確認。  「・・・当たりましたか。フリーライターですね」  これも確認だ。  マジで当てやがった。  ソイツは怯える。  「勘」を頼りに仕事をしてきた。  この勘だけは信じてきた。   このセミナーに参加したのも、勘が何かあると告げてきたからだ。  「・・・目的を教えてくれれば『助けてあげてもいいですよ。誰に頼まれたのかさえ言えは』」  嘘。  これは嘘だ。  男の言葉は青く光った。  ソイツには嘘がわかる。  これは「勘」ではない。  ソイツの能力だった。  嘘をつく人の言葉が青く光って見えるのだ。  ソイツの秘密の能力。  嘘をつく単語が青く口からこぼれて見える。  「助けてあげてもいいですよ」青い言葉が零れ消えていくのをソイツは確認した。  嘘だ。  確信した。  「・・・じゃあ、言うから、言うから」  それでもソイツは泣きながら男にいう。  涙は半分本物で半分偽物だ。  逃げるチャンスをまたつかまえなければ。  この男が窓を開けようとさえ思わなければ、ソイツ出て行けて、助かったはずなのに。  「教えてくれたなら、悪いようにはしませんよ」  青い言葉を吐き出しながら男はいう。  嘘。嘘。嘘。  ソイツは観念したようにゆっくりと両手を上げた。  男はにっこりと笑った。  意外とキツイ顔が和らいだ。  もちろんどういう仕組みかわからないが、最初この教室で男がしていた姿、今の顔とは違う人好きのするハンサムの笑顔に比べられるものではないけれど。  それでも、ちょっといい感じの笑顔ではあった。  でも見取れる変わりに、その隙顔に手の中に隠しもっていたスプレーをソイツは男に吹き付ける。   「何!?」  男が目をおさえた。  防犯スプレーだ。  しばらく涙が止まらなくなるはずだ。      

ともだちにシェアしよう!