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嘘で出来た男 4

 男が目を抑えた隙に、ソイツは慌てて窓を開けた。  三階の窓から飛び降りるためだ。  だが背後から襟をつかまれ引き倒された。  確かに確実に至近距離で、スプレーを顔に吹き付けたのに。  男は平然としていた。  おかしい。  おかしい。  それでもソイツはそれに対応する。  ヤバい仕事をずっとしてきたのだ。  こんなことも想定している。  後ろポケットからバタフライナイフをとりだす。  慣れた動きで折りたたまれていたナイフは、取り出されながら片手で広げられ、握られた。  そして、流れるような動きで男の喉を切り裂いた。  そこには全く躊躇いはなかった。  綺麗な切れ目が入り、血が吹き出し、ソイツの顔にあたたかな血が降り注ぐ。    助かった。  ソイツはホッとした。  この傷では助からないはずだ。  人を殺したが、罪悪などなかった。  この男は20人を殺しているのだ。  「ひどいことしますね・・・」  喉を押さえながら男が言った。  そうしないと空気が漏れて上手く声がでないからだ。    ソイツはぎょっとした    傷口から触手のようなものが出て、傷がふさがっていくのが見えたからだ。  キラキラと男の目が楽しそうに光っていた。  「そんなことをしたら、死んでしまうじゃないですか」  青く光る言葉が男の唇からこぼれるのが見える。  嘘。  嘘。  「私だって喉を斬られたなら死んでしまいます」  嘘。  嘘。  ソイツは恐怖感に叫んだ。  誰かがきてくれることを願って。     でも予想はついていた。  このさびれた公民館の利用者はこの時間はこの部屋の人間達だけで、おそらくわずかな職員達も殺されているだろう子とも。  「お前は人間じゃない・・・!」  ソイツは怯え、叫んだ。  「まさか。・・・人間ですよ」  男はソイツの手からナイフを奪いながら言った。    その言葉は青かった。  人間ではないのだ。  言葉は、青く輝いていた。  そして、その男が手にしたナイフも。  殺されるのだとわかった。    「・・・補食者!!」  ソイツは呟いた。  そう、多分こいつは。  こんなタイプは初めて知ったけれど。  ソイツにのしかかりながら、ナイフ持つ男はキラキラ光る目をしていた。  嘘しかつかない男は本当に楽しそうにソイツを見下ろした。    「『補食者』?・・・どうやらあなたには話を聞く必要があるみたいですね」  男は言った。   それは単なる事実だった。    「大丈夫・・・ひどいことはしませんよ」  言葉は青く光る。  その青さに絶望した。  その声の優しさにも。    楽しげに男の目が細められた。  「・・・あなたはなかなか面白い。楽しめる道具になりそうだ」  その言葉は嘘ではなく、ただの事実を述べただけだった。  ナイフが音もなく服を切り裂いた。  微かに皮膚もきられ、血が淡くにじんだ。  胸から腹までが露わにされ、男の綺麗な指が、明らかにそういう意味をもってそこを撫でまわしていた。  男に抱かれたことがあるからこそわかる。  「あなたの身体は悪くない。綺麗な身体だ」  事実を述べただけ。  「優しくしてあげますよ」  青く光る。  これは嘘。    雨の音のように柔らかな声を聞きながらソイツは怯えていた。  その男の目に生まれた欲望と、ここから始まる行為は予想がついた。  そして、ソイツは知っていた。  その結果、生き残ったとしてもどうなるのかも。  身体を綺麗な指が撫でていく。   それは優しい動きだった。  優しくなんかする気もないくせに。  確かめるように。  身体を撫でていく。  嫌だ。  嫌だ。  嫌だ。  思わず旧友の名前を呼んだ。  泣きながら。   助けてくれそうなのはソイツだけだったから。  

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