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嘘で出来た男 5
「・・・他の男の名前ですか」
男は呟いた。
そして、ソイツの両腕を片手でおさえつけた。
凄まじい力だった。
細身の身体のどこにこんな力があるのか。
「こんな時に他の男の名前なんか呼ばれたら、悲しくなってしまいますよ」
嘘。
嘘。
男の目は楽しそうだった。
「色々聞かせてくれませんか?・・・あなたについて」
ただの訊問だ。
でも、優しい声は雨音のよう。
「何故私の嘘かわかるのか『補食者』とは何なのか」
開いた窓から雨が吹き込む。
冷たく顔に当たる。
血の溢れかえる匂い、内臓とその内容物の匂い。
キラキラと光る男の目。
旧友の名前を叫んだ。
来てくれるはずなどないと知っていて。
ただ、首筋に落とされた唇は思いの外優しかった。
「・・・私はあなたが好きですよ」
男の青い嘘がきらめいた。
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