6 / 275

嘘で出来た男 5

 「・・・他の男の名前ですか」   男は呟いた。  そして、ソイツの両腕を片手でおさえつけた。  凄まじい力だった。  細身の身体のどこにこんな力があるのか。    「こんな時に他の男の名前なんか呼ばれたら、悲しくなってしまいますよ」  嘘。  嘘。  男の目は楽しそうだった。  「色々聞かせてくれませんか?・・・あなたについて」  ただの訊問だ。  でも、優しい声は雨音のよう。  「何故私の嘘かわかるのか『補食者』とは何なのか」  開いた窓から雨が吹き込む。  冷たく顔に当たる。    血の溢れかえる匂い、内臓とその内容物の匂い。    キラキラと光る男の目。  旧友の名前を叫んだ。  来てくれるはずなどないと知っていて。  ただ、首筋に落とされた唇は思いの外優しかった。  「・・・私はあなたが好きですよ」  男の青い嘘がきらめいた。

ともだちにシェアしよう!