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借り 4

 あの人とセックスをしたことは俺を変えてしまった。  それは、あの時、何故あの人が死体とセックスしていたのかのもう一つ理由でもある。    泣き叫ばれるのがうざい以外の。  捕食者に変化した人間は理性をなくし、ただ人を殺すことだけに没頭する。  それだけを楽しむのだけど、稀にそうではない捕食者もいる。  あの人のように性欲をなくさなかった捕食者だ。  そんな捕食者とセックスした人間は24時間以内に変異する。  不死身の身体に。  捕食者みたいに何か能力があったり、捕食者ほどスゴイ再生能力をもつわけでもない。  首を胴体から切りはなされれば死ぬ。  でも、不死身だ。  食事も睡眠も必要なくなる。  俺とセックスするまであの人が死体とセックスしていた理由はそれだ。  殺してからするか、してから殺すかしない限り、不死身の化け物を増やし続けることになるからだ。  まあ、あの人の場合死姦は、半分以上趣味だけど。  そして、俺はあの人にはされてないけれど、捕食者はセックスして不死身になった人間を思いのままに操ることができる。  相手の意志を縛ることかできるのだ。   なので、捕食者とセックスした人間は「従属者」と喚ばれる。  俺は今では従属者だ。  あの人が意志を縛る気がないので、意志は縛られてはいないけれど、不死身の身体を利用してあの人の仕事、「捕食者狩り」の手伝いはしているのだ。  毎回毎回、身体を引きちぎられながら。    スーツについても話しておこう。  この身体の大きな、すぐに忘れてしまうような特徴のない顔をした男は、この人の管理責任者だ。  国とこの人の連絡係であり、この人がたてる作戦の実行に必要なモノを用意したりする。   この人の「おもり役」だ。  「誰も引き受けたがらない仕事を押し付けられた」と本人は笑っていたけど、本当だと思う。  いつもスーツを着ているので俺からはスーツ、あの人からは国の犬だからってので「犬」と呼ばれてる。  本名は何回か聞いたけど忘れてしまう。   「覚える気ないだろう」  もう、名前を聞いても教えてくれなくなってしまった。  顔と同じ位インパクトのない名前なんだ。  年齢は30過ぎ、仕事ばかりしている男で、部下からは慕われている。  無表情で、命令に忠実な男、だけでもないことを、俺は知りつつある。   あの人に頼まれて、俺の訓練も引き受けてくれてるので、何かと親しくなってしまい、そのせいで、あの人からいらない詮索をうけている。  女の子がダメだった根っからのゲイだった俺はともかく、結婚していたこともある(離婚したらしい)スーツが、何故俺に そういう関心を持つんだと思うんだけど、あの人は嫉妬深いので色々面倒くさい。  あの人がスーツを嫌いな理由の一つに「僕のお前を狙ってる」てのはあるらしい。  これは馬鹿馬鹿しいとはおもうが、この人は、するどくもある。  何故なら、俺とスーツの間には「秘密」はあるからだ。  突然、あの人が連れてきた高校生。  あの人はスーツに「専用の穴」にすると告げた。  性奴隷にすると。  スーツは黙認せざるを得なかった。  捕食者達に対抗できるのはあの人だけだから。  でも、スーツは残酷に人を殺すあの人に振り回され苦しむ俺を見過ごせなかった。  「もしも・・・あの男といることに耐えられなくなったならぱ、君を殺してあげよう」  そう約束してくれたのだ。  俺はあの人から離れられない。   あの人も俺を離さない。   でも、あの人といるのは苦しいこともある。  スーツがしてくれた約束は、あの人から逃げられる可能性はあの人といるためには・・・必要なのだ。  スーツと俺には確かに秘密はあるのだ。  

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