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嘘つき 4
男は片手にミネラルウォーターのペットボトルを持っていた。
部屋の中に入ってくる。
無意識に後ずさっていた。
男はにこりと笑った。
キラキラ楽しそうに切れ長の目が光る。
「・・・目を覚ましたか。心配したんですよ、私の可愛い恋人」
青い言葉をこぼす。
別に言葉を見なくても、これが嘘なのは誰にだってわかる。
血まみれのソコに突っ込んで、遠慮なく引き裂くような真似が出来るのは・・・相手をなんとも思っていないからだ。
それは思い知らされている。
だが言うにことかいて恋人だと。
オレは思わず笑った。
ソイツが少し驚いた顔をした。
切れ長の目が見開かれる。
怯えてびびると思ったか。
オレはそんなにヤワじゃない。
男はそっとオレのそばによりそうように立った。
オレより随分高い。
180は超えている。
アイツ位か。
でも、アイツとは違って、細身だ、というよりアイツはゴリラみたいに鍛えてあるからな。
コイツの身体は昨日一枚も服を脱がなかったから知らない。
オレも今じゃ、身長こそイマイチのびなかったが、そこそこ鍛えた身体はしてる。
もう、あのころのように女の子のようには見えないだろう。
良く考えたら・・・オレにとっても友達だったあの女の子に失礼だよな。
お前とオレの身体そんなに変わらないぜって思ってたんだから。
今思えばオレの胸にキスしていたアイツが一番失礼だ。
あの子の胸だと思って夢中でキスしてたんだから。
いや、あの子ホントにペタンコだったけど、可哀想なくらいペタンコだったけど。
まあ、アイツが貧乳好きなのは良くわかったけれど。
男の胸と一緒にするか、おい。
ひでえヤツだな、お前。
なんか笑った。
思い出し笑いを急に浮かべたオレに、男はさらに眉をよせた。
ペットボトルを渡された。
オレは自分の喉がカラカラなことにきづく。
渡されたものを飲むか飲まないか悩んだが、水を飲まなきゃ脱水では逃げられないし、と大人しく受け取り、まだキャップが明けられていないことを確認し、飲んだ。
水がめちゃくちゃうまかった。
貪るように飲み、そして、安心する。
まだオレは人間だ。
水が欲しいのだから。
でも・・・やはりオレは変化するのだろうか。
男を見上げる。
165センチ程度のオレ、程度だ、嘘ではない。
・・・嘘です162センチです。
そんなオレからだとコイツ相当高い。
見下ろされてるんが腹立たしい。
「見下ろしてんじゃねぇ」
思わずアイツに良く言うように言ってしまった。
マズい。
コイツが捕食者かどうかはまだわからないけれど、コイツがイカレてることだけは間違いないのに。
逃げるためには生き延びないと。
生き延びるためには、どうにかコイツと良い関係にならなければならないのに。
「ふふっ」
男は楽しそうにオレを見て笑った。
なぜ笑うのかわからない。
不意に抱きしめられた。
大人しく逆らわない。
「大人しく質問に答えたら、帰しますよ」
零れ堕ちる青い言葉。
嘘だ。
逃がす気はない。
殺す気か。
「それほど若くはない、特別美しいわけでもない、でも印象的な顔。・・悪くない。身体も綺麗。乱暴な性行為にも慣れている身体。経験豊富。その気になればテクニックもありそうだし、感じやすい。・・・想っている男がいるが、他の男と寝ても十分楽しめる」
確かめるように身体を撫でられ、男が呟く。
言葉に色はつかない。
嘘ではない。
事実の確認か。
いくつか失礼な言葉があったような。
おいおい、ビッチ認定されてるのかこれは。
「・・・あなたが好きになりました。私の恋人になりませんか」
男は甘く囁いた。
青く言葉がとけていく。
嘘。
まあ、これは嘘が見えなくても、誰でもわかる。
だが身体を撫でる手は甘い。
喘ぎそうになった。
でも、またつっこまれるかと思うとゾッとした。
オレのソコは酷いありさまだろうから。
でもいい、抱きたければ抱かしてやれ。
嘘でも何でもいい。
生き残るために何でも言え。
何でもしろ。
耐えろ。
「・・・好きにしろ」
オレは目を閉じた。
これから起こることに耐えられるように。
ただ、オレを抱きしめて、背中を撫でる手は、今までオレの上に乗っかってきた奴らの誰よりも優しかった。
アイツよりも。
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