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嘘つき 5

 意外にも犯されることはなかった。  ケツの穴をズタズタにされるのを覚悟していたのに。  されたのはひどく優しいキスで面食らった。  身体を優しく撫でられながらキスされた。  手酷く扱われた後に優しく抱きしめられキスされるのは、泣きたくなるような、すがりたくなるような気分にさせられた。  まあ、コイツが酷いことをしたんだけどな。  訊問もなく、オレが優しくキスされた後、ふらつく身体を支えられながらつれて来られたのは、居間で。  オレは案内される間にこの家が部屋が6つの平屋であること、男以外の人間はいないこと等を確認した。  居間に入ると食べ物の臭いがした。  「あなたが寝ている間に買い物に行って作りました。簡単なモノだけですが」  男はいった。     オレを置いて買い物になんか行ったのか。  何考えてるんだ。  ただの事実を自分から述べる時、この男の言葉には嘘はない。  この男の法則だ。  少し分かってきた  他は全部嘘なのだ。  だが戸惑う。  そんな嘘に何の意味がある?  嘘っていうのは理由があってつくものだ。  事実をかくすために。  すべてが嘘ならばそれに何の意味がある?  この男の嘘の意味は?  和室の居間の座卓にはなんかつくりたての食事が並べられていた。  味噌汁とか、焼き魚とか、ほうれん草の煮浸しとか。  腹が鳴る。  どういう魂胆かわからないけれど、これはありがたい。  逃げるには体力がいる。  オレは居間の奥にある台所を確認した。  よくある古いタイプの台所だ。  よし。  オレは支えられたまま座布団の上に座らせられた。  その次の瞬間、置いてあった箸を掴んでご飯をかきこんだ。  旨い。  「久しぶりですので味は保証できませんが」    男は言った。  事実を述べるだけ。  空腹なのを別にしてもうまかった。  久々のマトモな食事だった。  「あんたは食べないのか?」  オレは聞いた。  味噌汁で魚を流し込む。  旨い。  旨い。  アイツんとこで飯を食べさせてもらって以来だ。  外食じゃない食事は。  2ヶ月ぶりか。  男は薄く笑った。  「今は空腹ではないので」  青い嘘。   聞かれたことには全て嘘で返ってくると考えた方がいいと確認する。   でも、おかしい。  この家もこの男も違和感がありすぎる。  男はオレの空になった茶碗にご飯を台所からよそってきてくれた。  味噌汁もおかわりをついでくれる。  貪るオレを嬉しそうにニコニコ笑ってみている。  冷たく整った顔が、和らいでいる。  だけどオレは忘れない。  コイツは20人を殺し、オレのケツの穴をズタズタにした男だ。  そして、オレが首を切り裂いても死ななかった男だ。  だが飯は食う。  やるべきことをするために。  おかわりももらう。  「ここはお前の家、もしくはお前が借りている家なのか?」  オレは尋ねる。  オレの尋問はあの男の尋問より確実だ。  何故なら、男は絶対に嘘をつくからだ。  「はい、ここは私の家です」  男は平然と青い言葉を吐いた。  「そうか」  オレは納得した。  男の着ているモノは今、上着こそ脱いでいるが、バカ高いオーダーメイドのスーツだ。  袖をまくったシャツもオーダーだろう。   だが、オレが着ているパジャマはそのへんの安売りのものだし、なにより男のサイズではない。  この家の家具、隅におかれた座布団の数、それらのどれもがこの家は少なくと4人以上の家族がすんでいることを示していた。  ここは、この男ではない他の誰かの家なのだ。  その家族がどうなったのかは大体オレは想像がついていた。  「この家の【他の人たち】はどうなった、死んだのか?」  オレはほうれん草の煮浸しを食べながら聞く。  男が感心したようにオレを見た。  それを気にせず、食事を味わう。  旨い。  アイツより料理は上手い。  アイツのは味が濃い過ぎる。  「文句を言うなら食うな」って怒られるけど。  「・・・皆さんお元気ですよ」   男は青い言葉を零しながら、冷たく微笑んだ。  殺されたか。  オレは納得した。  一家を殺してここを借りていたんだろう。    人気のない民家が必要だったから。  腹はふくれた。  柱にかかっていた時計を見た。  そろそろ・・・時間だった。    茶碗を黙って差し出し、味噌汁のおかわりを要求した。  男は笑って茶碗を受け取り持ってきてくれた。  その茶碗を受け取ると同時に熱い味噌汁を男の顔にぶちまけた。  

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