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嘘つき 8

 オレは立ち上がった  身体も軽い。  酷くされたケツの穴ももう大丈夫だろう。    不死身の化け物になってしまった。  これはアイツに本気で怒られるな。  オレは苦笑した。  でも、とにかく。  オレは伸びをした。    これで助かった。  従属者はまあ、不死身なだけの人間だし、まあ、死のうと思えば死ねるし、それ程わるくない。  これはこれで仕事には便利だろう。  ありがたい。  帰ろう。  アイツに報告しなければ・・・。  新しいタイプの捕食者だ。  定時報告がなかったから何かあったことは察しているはずだ。    問題は一つだけ・・・。  あの男にオレが生きていることを知られないことだけ・・・。    「ああ、やっぱり無事でしたか」  再び車道を歩き始めたオレの背に向かって呼びかけられた。  雨音のような優しい声が聞こえた。  空耳だと思いたかった。  ここから去ったはずの男がここにいるとは思いたくなかった。  最悪。  最悪のケースだった。  従属者になってしまった今、この男と一緒にいることが一番最悪なことになるのだ。  オレは振り返ることが出来なかった。  車を少し戻し場所に留めて歩いてここに来たのだろう。  だってエンジン音はしなかった。  オレは背後から近づいてくる足音に震えた。  コイツはオレに気づかれぬように戻ってきていたのだ。  そして、ずっとオレが苦しみ死ぬを見ていたのだ。  楽しみながら。  オレが孤独に冷えていく身体を、誰かに抱きしめてほしい、誰でもいいから抱きしめて欲しいと死んでいく姿をたのしんだいたのだコイツは。  コイツは人間の死を楽しむ。  苦痛と恐怖を楽しむ。  だってコイツは・・・捕食者なのだ。  「あなたを一人で死なせると思いましたか」  顔が見えないから嘘か本当かわからない。  でもこれは単なる事実を述べているだけかもしれない。  「ちゃんと抱いてこの胸の中で死なせてあげようと思っていたのですよ・・・最後には」  見えないけど嘘だろう。  ふわりと、背後から抱きしめられた。  「あなたの苦しむ姿は見てられない」  優しい雨音みたいな声が心に響いてしまう。  意味なとない声なのに。  背後から耳元によせられた唇から、零れた言葉が宙に青く溶けていくのがわかる。  やはり嘘。  でも、優しい言葉がそれでも欲しい。  優しく抱きしめられて身体が震えた。  暖かく包まれて、身体は安堵していた。  誰に優しくされても喜んでしまうこの身体が、オレは嫌いだ。  それがどれほど無意味か心は知っているのに。  この身体が優しさを欲しがることを、もう知っている男に優しく首筋にキスされる。    身体がまた震えた。    優しくして。  一人で死ぬ感覚を味わった身体が優しさを欲しがる。  抱きしめて。  暖かな身体に抱きしめられる。  「あなたは死なない」  事実の確認。  「私と同じで」  事実の確認。  「それがどういうことなのかあなたは知っている」    ああ、もう拷問も訊問も必要ない。  オレはこの男が望むことを何でも喋るだろう。  従属者。    捕食者とセックスをして変異した人間。  何故「従属」者なのか。  簡単だ。  捕食者が望むことに従うからだ。  オレはこの男の奴隷なのだ。  拒否権などない。  もうそういうものになってしまった。  「私にあなたの話を聞かせて欲しい」  男の声はどこまても優しかった。  

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