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捕食者狩り 一刀両断 2

 私達は交差点のすぐ隣りにあるマンションの屋上から少女の様子を観察していた。  少女は車が行き交う交差点に迷うことなく飛び込んできた。  クラクション、急ブレーキ、よけようとして他の車にふつかる衝撃音。  全ての音が最大音量でなり響いていた。  そしてその真ん中に少女がいた。  まるでその場を支配するかのように。  抜き身の刀を肩に担いだ少女は平然とそこに立つ。  しかし、その大きなダンプカーは少女を避けることができず タイヤを軋ませながら少女へと突っ込んでいく。  少女は笑った。  楽しげに。  少女は刀でダンプカーに立ち向かった。  愚かしい行為に見えた。  クラクション。  ブレーキの悲鳴。   タイヤの軋みは叫びのよう。  その一週全ての音が沸き立った。  十トン以上はあるダンプカーは、猛スピードで少女と激突する。  その重量とスピードが産み出すエネルギーは少女をぐちゃぐちゃにするはずだった。    たが、違った。  少女が思い切りよく振り切った刀は、ダンプカーを真っ二つに切り裂いた。  少女を中心にして、ダンプカーはそのスピードのまま後方に吹き飛んでいく。  吹き飛んだダンプは、違う車にぶつかり、衝撃音と煙かあがる。  「何でも斬る刀か」  私の隣りで男が面白そうに呟いた。    少女は笑った  楽しそうに笑った。  そしてそれは淫らな笑顔だった。  切り裂く瞬間の歓喜の余韻に身体を震わせ、刀に何度も口づけた。  ぶつかりあった車の中から、必死で這い出た男性がいた。  血まみれで、片腕が千切れかけている。  ヨロヨロと立ち上がり、逃げようとするその男性に少女はゆっくりと近づいていく。  刀を手にしたまま。  その目は欲情したように濡れていた。  「助けなきゃ、あの人が殺される!!」  少年が私の隣りで叫ぶ。  「まだだ」   男は少年を押し止める。  私はそれを見るしかない。  交通は規制した。  避難の誘導も指示している。  新たにこの現場に人が増えることはない。  だが、それ以上のことは無理だ。  相手は捕食者だ。  私のような人間ではどうすることも出来ない。    フラフラと血を流しながら、それでも男は逃げようと必死で歩き出す。  片方の脚からも血が流れ、上手く動かない身体を壊れたオモチャのようにぎこちなく動かし必死の形相を浮かべているが、その必死さ程、スピードはでない。  這うようなスピードだ。  カクンカクンと身体が揺れるたびに、千切れかれた腕がそれに合わせて揺れる。  そんな男を追うのは容易い。  ゆっくりと少女が近づいてくる。  顔を上気させ、淫らな吐息をつきながら。  刀で貫く期待に、身体が震えているのが分かる。  おぞましく、そして、目が離せない吸引力が・・・セックスの匂いが、少女からはしていた。  「ダメだ、あの人殺されちゃうよ!」  少年が男に言う。  作戦指揮権は男にあるからだ。  「もちろん殺されるに決まっている。だからこそ意味がある。どういう風に殺され、その死体をどうするかを僕は見る必要がある・・・相手を知らなきゃ戦えないだろ」  男は当然のように言った。  ケガした男を助ける気などなく、もしろ殺されるところから少女の能力の情報を得ようとしているのがわかる。  ここまでで、わかっていることは報告している。  私が到着するまでに殺されたのが10数人であることが奇跡だった。  ただ、そのために、少女を足止めするために手榴弾を投げ、少女のすぐちかくにいた数人が負傷したが仕方がない。  むしろ良くやったと、最初に指揮をとった部下達を誉めてやりたい。  少女は死なないが、少なくとも手脚を吹き飛ばし、再生するまでの時間を稼ぎ、足止め位にはなったのだ。  ただ、それは一度切りだった。  二度目に投げた手榴弾は意味がなかった。  一度目はただ単に少女が手榴弾が何なのか分からなかったからこそ、通用したことだけのことがわかった。   少女はゆっくりと刀を振りかぶった。  男を背後から貫くために。  「わかったよ!!」  少年は誰も動かないことに腹を立て、ライフルを構えたままの部下から、ライフルを取り上げた。  誰の命令にも従う必要がない少年は迷わなかった。  そう、彼を従わせられるのは彼の捕食者である男だけだし、男は少年を無理やり意志に従わせる気がないのだ。    

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