36 / 275

捕食者狩り 一刀両断 8

 くわん    くわん  奇妙に響くその音は刀になったままのその女の腕の内部から響いていた。  そして、ビルの立ち並ぶ繁華街にその音を反響させていた。  少女は血に染まったまま笑った。  その腕の、刀ではない部分、生身の肘あたり、まだ血のしたたるその断面にキスを落としながら。      くわんびしっ  反響音が大きく弾けるように鳴り響いた瞬間、その刀も弾けた。  そうジェル状に宙に広がったのだ。  刀は闇の色をしたジェルとなり、その形状を失い、巨大化していく。  少女の手から真っ黒な闇がジェルのような滑らかさで空中に広がっていく。    グチャリ    闇は少女の目の前にある、少女がバラバラにした死体の上へと延びていった。  膨らみ巨大化した闇のようなジェルは先程少女が殺した男を呑み込んでいった。    ずおん  鈍く重い音がして、一瞬死体を呑み込んだ闇が蠢いた。  闇が浮かび上がった。  死体は消えていた。  次の瞬間、闇のジェルは男と少年達にむかってものすごいスピードで延びてきた。  私は確かに見た。  自分達に闇が迫った寸前、男は少年の前に立ちふさがったのだ。   まるで庇うように。  だが、闇は男も少年も無視するように二人をすり避けるように伸びていった。    「しまった」  男は叫んだ。  闇はバラバラにされた身体へたどり着いた。  そして男が刻んだ女の身体に被いかぶさった。  ぶおん  女の死体を飲み込み、闇は蠢いた。  次に動いた時、女の死体は消えていた。    闇は少女の元へ戻っていく。  少女の右手に集まる。  男はジャケットを翻した。  そこに仕込んだナイフをつかみ出す。  少女へ男は投げナイフをまとめて放った。    少女はわずかにステップを踏むような動きたけでそれをよけた。  「お前の動きはもう覚えた」  少女は笑った。  戻ってきた闇があつまり少女の手の中で刀になった。     「愛してる・・・おかえり」  少女は刀に口付けした。  男は反対側のジャケットの前を翻した。  ジャケットの裏にはナイフがズラリと並べられている。    滑らかに指と指の間に挟んで、取り出し、取り出すと同時に少女へと投げる。  同時に少年がナイフを持ったまま少女へと走る。  少女は投げられた複数のナイフを僅かに身を翻し避けた。  そこに少年の蹴りが入る。  ナイフを持っているからといって、ナイフで攻撃するとは限らない。  少年の驚異的な脚力から蹴り出される蹴りは、ただの刃物よりもはるかに攻撃力がある。  少女はそれをたやすく身体をそらしよけた。  軟体動物のような身体の柔らかさだ。    そこで私のライフルが火を噴く。  そう、私も援護射撃を行う。  この距離ならば外さない。    少女は刀の刃を僅かにこちらに向けた。   ぐにゃり  刀は瞬間で盾になり銃弾を跳ね返した。  盾に変化した瞬間を狙い少年が少女の腕を切り落としにいく。  少女はほんの数歩動いてそれをよける。  そして盾は刀に戻り、少年にむかって振り落とされる。  少年は思い切りナイフを振り切った後のため、すぐに体勢がもどせなかったが、かろうじてナイフで受けたが、そんなもの意味はなかった。  バターでも切るようにナイフは斬られ、そのまま右腕がきりおとされた。  少年の右腕の切断面と付け根から、血がほとばしる。  少女は追撃をしようとしたその顔面に、ナイフが三本飛んだ。  男が投げたのだ。  少女は刀でそのナイフを払った。  ナイフはきれいに2つに切断され地面に転がった。  三本とも。  少年は少女がナイフに気を取られている間に右手をつかんで、後退した。  「無闇やたらに突っ込むなといつも言っている!!」  男が怒った。  「・・・ごめん。でもなんで急に避けられるようになったんだ?」  少年は切断された右腕をくっつけながら言った。  それは私も気になった。  男は黙って刀に変えていた右手を、もとの手にもどした。  そして、ジャケットを翻し、両手の指全てにナイフをはさんだ。  何本ナイフを仕込んで入るんだろうと、ふと思った。  だが私も援護射撃を行う。  私のライフルはあえて脚を狙った。  残り5発、全て撃つ。  それと同時に男のナイフが6本同時に少女へと飛ぶ。  少女は目視で銃弾をよけた。   まるでステップのように。  そして、ナイフを柔らかに背後に身体を倒し全てよけた。  最後に綺麗に片手だけて身体を回転させ、くるりと刀を持ったまままた立ちあがってみせた。  その動きは優雅でさえあった。  「・・・従属者は、死なないだけの普通の人間なんだろ、なんであの子こんなこと出来るんだ!!」  少年の言葉は私も同意見だった。  男と私の同時攻撃を避けれる人間はいない。  銃弾を目視で避けれる人間など。  「・・・刀となっている捕食者が従属者の身体能力を上げているってのが可能性の一つ。それと、この女・・・ラインが読める。この女の元々持っている能力だな『動きは覚えた』とこの女は言っていた。その通り、この女は相手の攻撃がどうくるか予測がつく」  男は素早く分析してみせた。    にしても、少女の身体の柔らかさや、身体のバランスは単に身体能力を上げただけのものには見えない。  少女のファイルをめくる。  短い時間でも部下達は情報をかき集めてくれた。  あった。  彼女もまた中学生まで、将来を期待されたバレエダンサーだった。   なるほど。  あの柔軟性とバランスはそこからか。  何らかの理由でやめている。  そこから非行に走り、衝動的な暴力行為に明け暮れている。  自分をレイプしようとした男たちの性器を切断したのは・・・正当防衛にはなっている。  バレエダンサーが暴力を奮う不良少女に?  でも、女の元にピアノを習い始めてからは落ち着いてきた、と資料にはある。  でも、ラインがよめるとは?

ともだちにシェアしよう!