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捕食者狩り 一刀両断 9
「たまにいるんだよ、相手の攻撃のラインが見えるヤツが」
男は言った。
私も格闘術などを学ぶ中でそういう人間がいることはきいたことがある。
相手の攻撃してくる軌道等が読める人間が存在することが。
格闘技などとは関係ないところでも、人混みで人にぶつかることなく歩ける人間や、野球の球種が投げる前からわかる人間はいる。
おそらく、と私の格闘技の師匠、今は少年の師匠でもある、は言っていた。
データから一番可能性の高いパターンを選別できる脳をもっているのでは、と。
データを蓄積し、瞬間で選別しているのだ、と。
つまり少女は、一度攻撃された人間のパターンならば読めるのだ。
「もう覚えた」そういった少女の言葉の意味がそれならばわかる。
少女は不敵に笑って男と少年を見ていた。
血まみれの少女は、傲然と顎を突き出し、片手で刀を担いで立っていた。
長い手足、挑戦的な瞳。
少女はとても美しかった。
こんな時でもそう思ってしまうほど。
あれほど、やられても、女が酷く扱われるのを見ても、少女は全く怯えなどをみせることはなかった。
「へぇ」
男が感心したように呟くのが聞こえた。
「バラバラにして、吸い込んでやる!!」
少女は言った。
その意味はもう分かっていた。
バラバラに斬ったものを、刀は吸い込むことができるのだ。
それは何らかの形で、女の回復のエネルギーや、少女に回されるエネルギーに変わるのだ。
そして、吸い込んで、消し去るということは・・・。
少女と女は男を殺すことが出来るのだ。
そういうことだ。
捕食者を殺せるのは、捕食者だけなのだ。
つまり、彼女達は男を殺せる存在なのだ。
攻撃を仕掛けたのは珍しく男の方からだった。
「援護しろ、首だけは斬られるな!!」
男は少年に言うと右腕を刀に戻し、少女へと向かっていく。
基本、暗殺を得意としている男は、少年を上手く使い、その影に隠れて攻撃するような方法を好む。
だが今回はそういうわけにはいかなかったようだ。
少年を表に立てて戦うには、少年には少女に対抗できる武器がない。
相手には「何でも斬る刀」があるのだ。
でも、男にはある。
飛び込んできた男の攻撃を読んで少女は身体をそらせてよける。
だが、そんな不安定な体勢から、少女は男を斬りつけた。
男は右腕の刀で受け止め流す。
「!!」
少女が驚く。
男が笑う。
「その武器があるのが自分だけだと思うな」
そう、男の腕の刀もまた、「何でも斬れる刀」だ。
男の能力「武器化」は「何でも斬れる刀」と「撃ったものの周辺半径50cm以内を消しさる銃」にその右腕を変化させられる能力だ。
おそらく、能力者達の中ではかなり弱い能力だと思われる。
男の消し去る銃は、三回から4回は討たなければ、捕食者を完全に消しされない。
しかも一度撃ったら次に撃つには10分が必要であり、頭を消し去っても攻撃ができる者もいる捕食者相手には分が悪るすぎる能力だ。
だが男にはそれを補っても余りある「狡猾」さがあり、それで捕食者達を出し抜いてきた。
だから、多分何か考えているだろう。
それに、男の刀と少女の刀は拮抗することは分かった。
火花を飛ばしながら刀を合わせあう。
どちらも相手を斬れない。
少女と男の力も拮抗する。
バラバラにした男の死体を吸い込んだからか、少女の腕力は男と変わらなかった。
二人は息のあったダンスでも踊るかのように、刀を流しあう。
私はふと、少年の言葉を思い出した。
「あの人、踊れるんだぜ」
少し眩しそうに少年は言ったのだ。
「スゴイ・・・綺麗だった」
少年は恋する顔でそう言った。
どんな遣り取りがあり、どうすればあの男が踊るようなことになるのか分からないが、恋人達の時間の中で男は踊ってみせたらしい。
それが美しかっただろうことは、良く分かった。
少女と男が踊る死のダンスはとても美しかったから。
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