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捕食者狩り 一刀両断 14

 男には人を殺してはいけないとか、人を傷付けてはいけないとかそういうことの意味が一切わからない。  欠落しているのだ。  だから殺しの邪魔をされたり、非難されると本気で怒る。  だが、男は自分が理解できることではかなり道徳的でもあるのだ。  これは、少年が現れてから分かったことではあるのだが。  その数少ない道徳心の一つに「浮気は良くない」というのがある。  何故かこれには男は忠実なのだ。  特に、少年を恋人と認識してからは。   恋人を平気でバラバラにできても、浮気をして傷つけるのは良くない。  「そんなことをしたらガキが傷つくじゃないか」  最近、何故死体を犯さなくなったのか聞いた時の男のセリフだ。  恋人を浮気で傷つけるのは良くないという認識は持ち得ているのだ。  それだけかもしれないが。    「・・・浮気じゃない違う」  男が必死で少年に言い訳している。   「・・・どんなもんだか」   少年の目が冷たい。  男はもう何も言えない。  これで少年への怒りは消えた。  少年はうまくやった。  多分男が多少、疾しいからだ。  仕方なさそうに、女に向かう。  女は泣き叫ぶのを止めていた。   少女が死ねたから。  「その女の人を刻むのもダメだぞ。あんたこの子に約束しただろ」  少年に指摘され男は舌打ちした。   少女の代わりに女を刻みたかったのだ。  でも約束は守る。  これもこの男の数少ない美点であり、我々が男と契約した理由ではある。  男は信用できる。  契約の範囲では。  ただしそれは悪魔との契約に似ているが。  「・・・殺して」  女は男に懇願した。  「私を殺せるのはあなただけ。・・・そうなんでしょう?・・・殺して」  女は男を見つめる。  「殺さないと約束した」  男は言い、女を眺める。  女ははらはらと涙を流す。  胴体の右半分を失っても、女はとても美しかった。    こちらとしては捕食者のサンプルが欲しいと、上から催促がきているので殺して欲しくはないのだが。  そう、こちらも仕事だ。  逐一報告している。  「僕に納得できる、お前が死にたい理由を言え」  男は女を見下ろしながら言った。    女は柔らかな微笑をうかべた。  「あの子を私に頂戴」  少年に女は頼んだ。  少女の頭を少年が優しく女に手渡した。  「ありがとう。あなた優しいのね」  女は少年に言った。  女は少女の頭を抱きしめた。  愛おしげに口づける。      「理由を言え」  男は迫る。  女はぽとりぽとりと涙を少女の頭に落とした。  そして言った。  「この子は私が生きるために命を捨ててくれたわ。なら、私もこの子の死に命を捨てなけば、私達同等じゃないでしょ」  愛してるもの。  愛されたらその分愛し返したいじゃない。  女は言った。  

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