46 / 275

懇願 3

 あの人はしばらく服さえ脱がないだろう。    ここで俺に求められているのは、死体の代わりだ。  死体であの人が気持ちよくなる代わりに俺を使う。  優しくされるのは・・・後でだ。  全裸にされた身体をひっくり返され、背後から慣らしもせずに突っ込まれた。  「うぐぅっ」  俺は色気も何もない声をあげる。  濡らしもせずにいきなり突っ込まれたそこは、悔しいことに毎日毎日、散々慣らされているので、裂けはしなかったが酷く痛んだ。  多分、無理に動かれたら裂ける。    あの人は容赦なく動いた。    「うぎぃ・・・」  唇を噛みしめ堪える。  あの人は気にしない。  何故なら俺のモノはビンビンに勃ちあがり、酷くすればするほど、前から恥ずかしい位零れていくからだ。    「痛いの好きでしょ」   髪を掴んて頭を引き上げられ、囁かれた。  「・・・好き・・じゃない」  俺はいう。  「ふうん」  あの人は無理やり大きく動いた。  引き裂くために。  「ううっ!!」  俺は声を漏らす。  後ろが裂けた。  血が出たせいか、あの人の動きが滑らかになる。  俺は痛みで射精した。  「ああっ!!」  俺は叫んだ。  痛みと快感が混じりあい、とけあう。  「イクくせに・・・」  あの人が裂け目を広げるように動く。     痛い痛い。  でも、また、俺のは勃ちあがり初めている。  「あんただから・・・」  俺は喚く。   あんたが欲しがっているのがわかっているから。    あんたが俺の苦痛を欲しがっているから。  そして、それと同じ位優しくしたいって思ってくれてるから。  後で優しく抱いてくれるって知っているから。  痛くてもいい。  コレがあんたがくれたもんだから。  コレがあんただから。  俺は全部貰う。  苦痛でもなんでももらう。  あんただからイける。  いずれあんたの全てをもらう。    「あんただから・・・」  俺は叫ぶ。  「僕だから・・・痛くてもいいの?」  あの人が震えるようにいう。  俺を、引き裂きながら。  「うん」  俺は頷いた。    痛い。   熱い。  あんたの熱。   あんたのモノ。  痛い。  痛い。  痛みもあんただと思えば・・・痛いけど、イける。  イけるんた。  「可愛い。ホント、お前可愛い」   あの人が俺を引き裂きながら、大きく動く。  「ああっ・・・痛っ・・・」  俺は呻く。  熱い、痛い。  でも、求められている。  そう思えば痛みが、快感と同じくらい、熱を前に溜める。  後ろでイカされるのとも違う、前でイクのとも違う、脳が痛みを書き換えるこの感覚を・・・なんて言うのだろう。  「  」  俺の名前をあの人が呼ぶ。  また前から熱いモノが零れる。  ああ、気持ちいい。  痛みと共に快楽がある。  「キスして・・・お願い・・・」  俺はせがむ。  きつく髪をひきつけられ、噛みつくようなキスを首をねじ曲げられるようにしてされる。  それでもキスだ。    舌を血がでるまでかまれる。  唾液と血を飲み込む。  生きながら喰われるような、中からあの人に食いちぎられるような感覚は、凶暴で、苦痛で、熱くて。  でも、たまらないほど甘かった。  あの人が欲しがっているのが伝わってきて。  あの人にしがみつくことさえ許されず、俺はあの人に焼かれ続けた。  傷が治る前に動かれ、腰を酷くするためだけにたたきつけられた。     「  」  名前を呼ぶ声だけが優しい。  肩の肉を喰いちぎられる  「ああっ!!」  俺は悲鳴をあげた。  その痛みでまた射精する。    「後で・・・優しくしてやるから・・・、もう少しだけ・・・」  あの傲慢なあの人がせがむんだ。  まるで許しをこうように。    「・・・僕を触らせてやるから・・・もう少しだけ」  血塗れの穴で、俺を味わいながらあの人が言う。  肩から流れる血を舐めながらあの人が言う。  たまらなくなる。  痛みと苦しさで何度も何度も俺は達した。  出すときに感じるものは間違いのない快感で。  何度も何度も脳が焼かれていくようだった。    「僕だけだろ?・・・僕だから痛くてもいいんだろ?」  そうしつこく聞く小心ささえ愛しい。  あんたを全部貰う。  あんたが与える苦痛も快楽も、その傲慢さも、そのくせ俺が離れることを怖がる小心さも。  全部だ。  「・・・あんただけだ。あんただからだ」  俺は呻く。  あの人は明らかにホッとする。  「・・・好き」  俺は言った。  本当は名前を呼びたかった。  だけど俺の愛する男には名前がなかった。  「・・・好きだ」  だから名前の代わりにそう叫び続けた。

ともだちにシェアしよう!