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懇願 7

 面白かったのだ。  口が悪いし、生意気だし、無鉄砲で、ワガママで。  最初女の子だと思った位綺麗な顔をしているのに、その辺の不良より凶暴で、そのくせ、甘えたで寂しがりやで。  可愛かったのだ。  私がそれまで出会った誰とも違っていた。  そして、優しかった。  私の幼なじみ、私の大切な女の子は、少し人とは違っていた。  彼女はとても賢く、とても綺麗な魂をしていたけれど、人とはちがった。  この世界を生きていくのに困難な性質をいくつか持っていた。  言葉を言葉通りにしか理解できず、難しい感情は読み取れない。  彼女はその性質の善良さと、頭脳の優秀さゆえに、周囲に受け入れられ、愛されてはいたけれど、困難さは抱えている人間だった。  時に酷く憎まれることもあった。  アイツは彼女を理解した。  私以上に理解した。  彼女の怯えや、彼女が苦しむ時、私よりもそれを理解した。  彼女はそれを訴えることが一番困難だったのに。  少し嫉妬しながら、それでも感謝した。  私達は3人でいるのが自然になっていた。  多分、彼女の親友はアイツで、それは今でもそうなのだ。  別れてからもたまに会う彼女は、アイツと年に数回会うことを私と会うこと以上に楽しみにしているからだ。  だからアイツは、彼女と私が付き合う前に、「抱いて欲しい」と頼み、だからこそ付き合ってからは態度にも出さなかった。  彼女に優しくて、私には憎まれ口を聞いて・・・。  あれは幻だったのかと思った位だった。  ずっとずっと、友人であり続けた。  互いの仕事で助け合うことなどなどもあったりしたが、友人だった。  数年前、妻と別れた。  別れなければならなかった。  彼女と一緒にいるには、私はあまりにもこの手を汚し過ぎていたし。  限界だった。  彼女を失いたくなかった。  だけど、それは私が選んだことだった。  彼女のためだった。  彼女は別れを受け入れた。  詳しい理由などなくても。  「私ではあなたを助けることができない」   それが彼女の理解で、それは正解だった。  彼女は正しい解を探す数学者で、私は血塗られた処刑人になることを選んだ歯車だった。  それでも、今でも彼女は大切な人であることはかわらないけれど。  妻と別れて数ヶ月後、アイツが訪ねてきた。  怒るのだろうと思った。  何の相談もしなかったから。  妻と会って別れたことを聞いたのだろう。  妻、いや、彼女も聞かれない限り何も言わない。  彼女の場合はそういう性質で、私の場合は言いたくなかったからなのだが。   だけどアイツも薄々わかっているはずだ。   仕事を頼むことなどもある。  私の仕事が血塗られたもので、誰も引き受けたがらない汚れ仕事であることを。  なら、最終的には理解してくれると思った。  アイツも私とはちがうが、汚れた世界に片足を突っ込んでいたからだ。  だが、いつもと違い、真っ青な顔をしたアイツは、長い長い沈黙の後言った。  「・・・もう一度だけでいい。抱いてくれないか」  それは悲痛な声だった。  私は驚いた。  そして、知った。  長い長い時間。  十何年もコイツは、私をそういう風に想っていたのだ。    「抱いてくれるだけで良い。もう一度だけ」    アイツは震えながら言った。  彼女がいるから。   私が彼女を愛しているから。  彼女が私を愛しているから。  押し殺してきたのだと知った。  ・・・切なくなった。  遠い昔、抱いた感触が蘇った。  薄い胸。  口づけた淡い2つの色付く場所。  白く肌。  それは・・・甘い思い出でもあった。  彼には過酷なだけの性行為だったとわかっているけれど。  私が好きなのか。  そんなに。  彼に対する想いはそういうた愛ではなかった。  でも、応えてやりたいとは思った。  一度は抱いたのだ。  それに・・・コイツは私と同じような世界にいた。  汚れたこの手をコイツは拒否しないだろう、そう思った。    彼女を失った。  自分からそうしたのだけれど、それでも喪失感はたまらなかった。    飢えていた。     だから、アイツに手を伸ばした。  アイツはもう少女には見えなかったけれど、相変わらず綺麗な顔をしていた。  私はコイツが好きだった。  ずっと可愛がってきたのだ。    だから、大丈夫なんじゃないかと思った。   だから、震える身体を抱きしめて、キスしてしまったのだ。  そんなことはするべきてはなかった。  結論から言うと、出来なかった。  私はアイツを抱けなかった。  アイツの肉体に反応しなかったのだ。  アイツは私のモノを咥えてくれたりもしたのだが、どうにもならなかった。  私はアイツが可愛い。  今だって。  でも、私はアイツの身体を受け入れられなかった。  男でも女でもないようなアイツの身体は抱けた。    でも、男になってしまったアイツの身体は、どうしても抱けなかったのだ。     「お前が悪いんじゃない」  アイツは笑った。  「そうだよな」  アイツは泣いた。    何一つアイツは私を責めなかった。  多分それが決定的にアイツを壊した。     ただでさえ危ういアイツが破滅的な仕事をするようになった。  しばらくいないとおもったら、病院にいるアイツを発見するはめになったりするようになった。  私はアイツに手を伸ばすべきじゃなかった。  断るべきだった。  友情のままで。  アイツもそれはそれで納得したはずなんだ。  あそこまで傷つくこともなかった。    彼女を失った喪失感を埋めるためだけに、アイツに手をのばし、傷つけた。  抱けるものなら抱いてやりたかった。  あんな顔させるくらいなら。  私にはアイツに負い目がある。    そして、アイツは私の大切な親友なのだ。  そして、アイツが会いにくるのを待っている彼女にとっても。  だから私はアイツを助けなければならないのだ。  

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