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探索 2
僕は犬から受け取っていた手書きのノートをめくる。
そう、こういう世界では手書きの方が安全だからな。
パソコン等の方が情報をぬかれて危ない。
「お前の【ヤり捨て相手】はこれまでにあった5つ以上の事件をこの男と関連付けているが、これらを同一犯と断定はむずかしい。まして単独犯だとは思えないはずなんだ。やり口は同じだ、確かに。人を集め、どうやるのかはわからないがたがいに殺し合わせる。だが、その会場でそうさせていた男は年齢も風貌も体格も、何一つ共通点がない。明らかに他人だ。だが、何らかの理由で【ヤり捨て相手】はその全員を同一人物だと仮定した。・・・そうだとしよう」
僕は言葉を切った。
「【ヤり捨て相手】はそれを【捕食者】だと仮定している。ならば、それは【姿を変える能力】を持った捕食者だと云うことだ」
ガキも熱心に聞いている。
「いや、あの、だな、ヤり捨てた覚えはないんだが」
犬が何か言ってきた。
「黙れ。【ヤり捨て男】!!」
撲は断じる。
「いいか、コイツはこういうヤツだからね、信じたらダメだぞ」
撲は隣の席に座るガキの髪を撫でながら言う。
ガキが困ったように笑う。
「自分の女の代わりに抱いておいて、ホンモノが手に入ったら知らん顔。女がいなくなった後、もう一度試してみたら年食ったのは駄目だったって捨てるって最低の外道だろ。僕はお前かどんなにでかくゴツくなろうと全然抱けるからね、コイツとは違うから」
僕は可愛いガキの頬にキスをした。
犬にはソイツとの経緯は根ほり葉ほり聞かせてもらった。
犬が嫌がるのが楽し過ぎた。
ボランティアだが面白くなってきている。
「いや、俺・・・抱かれるよりは抱きたいんだけど」
「・・・その言い方はあんまりだ」
ガキや犬がなんか言ってるが知らない。
僕は基本的に僕の聞きたいことしか聞かない。
いつもの僕のマンションのダイニングだ。
この家の中以外はGPSやら、集音マイク等をつけることを僕は義務付けられているからだ。
ここが一番内緒話ができる。
今回は犬には珍しい、テリトリー荒らしになりかねない話だからだ。
捕食者が関わっていることさえわかれば、ソイツは僕の事件だが、今はまだ何もわからない。
単なる大量殺人事件かもしれない。
単なるという言葉が大量殺人に相応しいかどうかはわからないが。
「ただ、お前の【ヤり捨て相手】がどうやってコイツが次に現れる場所を特定したのかは分からないな。コイツが田舎、小さな街、防犯カメラ等がないこと、そういうところを狙ったのは間違いないないんだが。そんな条件の場所、いくらでもある。だけど、コイツが次にあらわれる場所を特定しないとな。そこにお前の【ヤり捨て相手】もいるはずだ。そして、捕食者かどうか確認できる。確認出来次第、駆除する」
僕の言葉にガキが手をあげた。
「はい!!」
元気よく言う。
発言の許可待っているのだ。
学校じゃないぞ、ここは。
可愛いけど。
「何?言ってみて」
思わず笑顔で許可してしまう。
「なんでまだその人が殺されてないとわかるわけ?悪いけど、これだけ簡単に殺してるなら、その人も殺されてるんじゃ」
ガキの言葉はもっともだ。
「殺されてない。死体がない。・・・コイツは死体の処理をしない。住処を得るために住人を殺しながら移動しているけれど、死体はどこかの部屋に詰め込むなり、冷蔵庫に入れるなりするだけだ。殺人会場でも死体はそのままだ。アイツの死体はないってことは生きて連れまわされている可能性が高い」
許可してないのに犬が喋った。
全然可愛くない、てか、不愉快だ。
だが、正解だ。
「もしくは・・・殺したつもりが生き返った。従属者として」
僕は言う。
犬は嫌そうな顔をした。
コイツもこの可能性を考えてはいたが、それはそうあってほしくはなかった可能性だったのだろう。
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